第14回 ピラミッドに新たな「未知の空間」の発見[前編]

 物語のクライマックスは、息子の1人であるホルジェデフが、ジェディという魔術師の話をするところから始まる。彼は110歳でいながら壮健で、1日500斤のパンと、牛の肩肉と100杯のビールをたいらげ、死者をよみがえらせることができ、なにより「トト神の聖なる部屋の数」を知っているという。

 「トト神の聖なる部屋の数」は、クフ王が、「自らの墓所に同じことをするために」、なんとしても知りたい数だった。残念ながらパピルスが朽ちてなくなっているため、この数が何を意味しているのか、またクフ王は果たしてその数を知ることができたのかを知ることはできないが、秘密の空間を想像させる物語ではないだろうか(ただ、ピラミッド内部の全ての部屋は、もともと聖なる空間であり、秘密の空間だったはずだ)。

歴史の父ヘロドトス。(© Marie-Lan Nguyen / Wikimedia Commons / CC-BY 2.5)
歴史の父ヘロドトス。(© Marie-Lan Nguyen / Wikimedia Commons / CC-BY 2.5)
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 紀元前5世紀にエジプトを訪れた歴史の父ヘロドトスも、興味深い話を当時の神官から聞いている。

ピラミッドの立つ丘の中腹をえぐって地下室も造られた。これは王が自分の墓室として造らせたもので、ナイルから掘割を通して水をひき、さながら島のように孤立させてある。(ヘロドトス(松平千秋訳)、『歴史』、岩波書店、1971より)

 しかしこれは大ピラミッドのことではなさそうだ。1945年にカフラー王の参道横で発見された「オシリスの竪坑」と呼ばれる深さ35メートル以上の複合墓には地下水の水路があることから、ここがヘロドトスの伝え聞いた場所ではないかと考えられている。そして、もちろんクフ王とは関連がない。

 7世紀以降のイスラムの時代にも、ピラミッド内部についての話が残されている。内部に侵入したという初めての記述は、日本でも有名な『千一夜物語』に登場する。820年頃にエジプトを統治した「カリフ、アル=マアムーンとピラミッドの話」として398夜目に、歌姫シェヘラザードが次のように語っている。

(ピラミッドの中には)多彩の花崗岩でつくった部屋が30もあり、貴重な宝石やおびただしい財宝、珍奇な彫像の類きらびやかな道具や武器のたぐいで充満しておりますが、それらはみな復活の日まで錆びぬように、英知を尽くして調製した香油が塗ってありますよし。さらにまたその中には折り曲げても、割れることのないガラス器、および(その中の)さまざまに調製された薬品や、各種の調合水薬などがあるとのことでございます。(前嶋信次(訳)、『アラビアンナイト(10)』、平凡社、1979, 1995(第9刷)より)

歌姫シェヘラザード。(Wikimedia Commonsより)
歌姫シェヘラザード。(Wikimedia Commonsより)
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 千一夜物語の話は、創作、多大な粉飾をつけられた逸話のように考えられている。物語の内容とは異なり実際には、中王国時代にはすでにギザのピラミッドは開けられていた可能性が高い。ギザ第四のピラミッドともいわれるケントカウエス女王墓から中王国時代(紀元前1980~紀元前1760年頃)のスカラベが発見されていたり、三大ピラミッドの複合体が解体され、当時の王であったアメネムハト1世のピラミッドで再利用されていたりするからだ。