第4回 フライト19編隊

冷戦時代の幕開けを迎えた大西洋上空での「フライト19」の失踪事件は、その奇妙な状況から、歴史上もっとも不可解な航空機事故の一つとなった。その最後を示す物的証拠がないために、ますますミステリアスな様相を深め、いわゆる「バミューダ・トライアングル」の存在を示す重要証拠の一つとなっている。

 1945年12月5日午後2時10分。フロリダ州フォートローダーデールの海軍基地から、5機のTBMアベンジャー雷撃機の編隊、「フライト19」が飛び立った。彼らの任務は通常の訓練飛行で、2時間ほどで基地に無事帰還するはずだった。搭乗員は合計14名、隊長のチャールズ・キャロル・テイラー中尉は数千時間の飛行経験を持つベテランだった。

グラマン・アベンジャーの初陣は1942年の太平洋におけるミッドウェー海戦だった。この写真は、その年の9月にバージニア州ノーフォーク上空を飛行中のアベンジャーの飛行中隊。(United States Navy Photograph)
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 各機は出発前に徹底的な点検を済ませていて、すべて正常に作動していたし、燃料も満タンだった。作戦はまったく正常に進行し、滑空爆撃訓練も計画通りに完了して、全員で基地への帰還の途についた。

 ところが午後3時45分ごろ、フォートローダーデール基地にテイラー中尉からうろたえた声で無線連絡が入った。「陸地が見えない。コースを外れたようだ」。

救援機も消息を断つ

 時々交信が途絶えるなか、フォートローダーデールの管制塔は編隊を無事帰還させようと必死の努力を尽くしたが、無駄に終る。パイロットの一人(テイラー中尉ではない)から「白い水のようなものに突入した……完全に方向を見失った」という無線が入った。その一言を最後に、フライト19からの通信は途絶えた。

 2機のPBMマリナー飛行艇が、機体と搭乗員の捜索に基地を飛び立った。しかし、そのうちの1機と搭乗員13名も通信を絶ち、二度と戻っては来なかった。

 海軍は数日間にわたり大掛かりな捜索を展開した。艦船と航空機を投入して太平洋とメキシコ湾の30万平方キロメートルに及ぶ海域をしらみつぶしに捜索したが、何も発見することはできなかった。その後、海軍調査委員会は「我々は何が起こったのかについて推測することすらできない」と公式に発表した。

フライト19の運命の飛行はフロリダに始まり、大規模な捜索のかいもないままに大海原に終った。伝説的なバミューダ・トライアングルが、飛行機と隊員たちの運命の謎を解くカギを握っているのだろうか?(Photograph by Planetary Visions Ltd/Science Photo Library)
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 想像はいや応なく過熱した。ある陰謀説では、フライト19はバミューダ・トライアングルの犠牲になったという。政府と海事当局は公式に認めていないが、この伝説的なエリアはバミューダ諸島、マイアミ、プエルトリコの首都サンファンを頂点とする三角形の海域だ。

大量の船舶が遭難

 19世紀の前半以降、この海域ではおびただしい数の船舶、そして20世紀になると航空機もが跡形もなく消滅し、何か未知の力が働いているのではないかという主張に繋がった。

 実際には、この海域で多発する事故の原因は地域特有の危険な自然条件だ。さらに、メキシコ湾流の強い流れが事故の証拠を消し去ってしまい、あとには不可解な疑問だけが残されるというわけだ。

 その他の説はどれも突飛だ。宇宙人に誘拐されたという説や、時空の隙間に落ちてしまったとする説まである。また、邪悪なソ連の仕業だというものもある。どれも話としては面白いが、信ぴょう性のある説明とはとても言い難い。後に、テイラー中尉は訓練に遅刻し、代理の隊長が見つけられなかったという証言も飛び出し、さらに混乱を招くことになった。

 だが、ここにもう一つ、すべての証拠と辻つまが合い、いかにも現実的だが、かといって悲劇性が損なわれるわけでもない、まったく別の説がある。テイラー中尉は、乗務機に搭載された二つのコンパスが両方とも故障していると管制塔に伝えている。どういうわけか、きちんと動いている時計も搭載されていなかった。自分の正確な現在位置や時刻を把握できなかったテイラーは、実際はバハマ上空を通過中だったのに、フロリダキーズ(フロリダ半島最南端の島々)上空を飛行していると信じ切っていたのだ。

 彼はこの間違った思い込みに基づき、メキシコ湾経由でフォートローダーデールに向かえばよいと確信して訓練生たちを誘導してしまった。実際には遥か大西洋上に編隊を率いて飛んでいたのだ。途中でこのとんでもない間違いに気付いた時には既に遅く、帰還できるだけの燃料は残っていなかった。編隊はスコールが吹きすさぶ海へと飲み込まれ、彼らの姿を見ることは二度となかった。機体は海面に突っ込んだ時の衝撃で大破し、残骸はことごとく深い海の底に沈んでしまったと思われる。

それでも残る謎

 行方不明のマリナー飛行艇については、まったくの偶然で空中爆発したことを示す有力な証拠がある。タンカーのSSジャイアント・ミルズ号が航行中に、巨大な火の玉が海に落ちたのを目撃したと報告しているのだ。それはマリナーがレーダー上から消えた時刻と場所に一致していた。だが、その後行われた海域の捜索では、生存者も漂流物も回収されなかった。

 事故後数十年の間に、フロリダ沖では数機のアベンジャーの残骸が発見されたが、調査の結果、どれもフライト19のものではないことが判明している。あの時、いったい何が起こったのかを示す確かな証拠は、今も海底に眠っていることだろう。だが、海がその秘密を解き明かして見せてくれることはなさそうだ。

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