第3回 財宝船サンミゲル号

 スペインの王位継承者をめぐってフランスとヨーロッパ諸国との間で起きたスペイン継承戦争は、18世紀が幕を開けた1701年に始まった。この戦乱によって、ヨーロッパと新大陸間の海上交易ルートは危険にさらされていた。1714年には取りあえず和平が成立し、フランス国王ルイ14世の孫にあたるフェリペ5世が、フランス王位の継承権を放棄することを条件に、スペイン王として即位した。

 戦いは終ったものの、スペイン王は今度は底をついた国庫を満たす必要に迫られていた。パルマ女公エリザベッタ・ファルネーゼへの結婚の贈り物を用意しなければならなかったのだ。戦時下では財宝船を仕立てるのが難しかったため、財宝は新大陸のスペイン植民地にたまりにたまっていた。そこでフェリペ5世は、スペイン艦船11隻とグリフォン号というフランス商船1隻から成る船団を組織し、アメリカ大陸で略奪した財宝をスペインへ輸送するように命じた。

発見されるのを待つ海底に沈んだ財宝。現在でも遭難したスペイン船団の捜索作業は続いており、サンミゲル号の姉妹船から100万ドルを超える価値の財宝が、つい最近、発見された。 (Photograph by Ferderic B/Shutterstock)
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 船団はたちまち金の延べ棒や銀細工、金貨や銀貨、エメラルド、真珠などの宝石類、陶磁器など、あふれんばかりの珍しい品々で満杯になった。積み荷を現在の価値に換算すると、少なくとも数億ドルに上るだろう。

ちょうど300年前の嵐の海

 1715年7月、船団は幾度も出航を延期し、キューバのハバナに係留されたままになっていたが、もはや、それ以上は先延ばしにすることは許されない瀬戸際にあった。すでにハリケーンの季節が始まっていたが、海賊や私掠船(自国の政府から、敵国の船を攻撃して積み荷を略奪してもよいという私掠免許を得た個人の船)の襲撃に遭遇するよりは危険性が小さいと思われた。ついに7月24日朝、財宝船団は帆を揚げて大海原へと出航していった。

 最初の数日間はたいした問題もなく、船長たちはフロリダ沖の波間に潜む危険な岩礁や浅瀬を巧みに避けて船を進めていった。ところが次第に風が強まりだし、7月29日には熟練の船乗りたちには大きな嵐が近づいていることがわかった。7月31日未明、ついに船団は激しい嵐に揉みくちゃにされながら、為す術もなく陸に向かって押し流されて行った。

 夜が明けるころには、船はみな粉々に砕け散ってしまい、辛うじて残ったのはフランス船のグリフォン号1隻だけだった。総勢2500名の乗組員のうち4割が波の下に消え、陸に打ち上げられて生き残った者たちにも、やがて危険で過酷な運命が待ち受けていた。多くの船乗りたちはケガや病気、あるいは野ざらしになって衰弱し、飢えと乾きで死んでいった。遭難の知らせがハバナにもたらされ、救助隊が送り出されたのは8月も半ばを過ぎたころだった。それでも、船の沈没地点がそれぞれ数キロメートルも離れていたにもかかわらず、必死の引き揚げ作業によって、難破後の数カ月で積み荷のおよそ半分が回収されたのは驚異的といえる。

今でも打ち上げられる宝の一部

 その後、長い歳月が経っても、フロリダ沿岸には数々の貴重な漂流物が打ち上げられた。船乗りたちは何か宝物が引っかかることを期待して、古い言い伝えを頼りに海に網を投げ入れた。やがて、海に沈んだ財宝船団の物語も人々の記憶からほとんど消えかけていた20世紀半ばのこと、建築請負業のキップ・ワグナーがビーチに打ち上げられたコインを見つけた。

 興味をそそられた彼は徹底的に調査を行い、ついに難破船のうち1隻を発見、自らサルベージ会社を設立して、その船を引き揚げた。それから数十年、多くの宝探し業者が目覚ましく進歩する技術を駆使して、7隻の沈没船を探し当て、財宝を手に入れた。

 アマチュアのトレジャーハンターたちも沈没船の捜索に貢献した。その中には、2010年、87歳になる女性が娘とダイビング中に、22金製の鳥の形の装飾品を発見した例もある。しかし、沈没した11隻のうち、マリア・ガランテ号、エル・シエルボ号、ノストラ・セニョーラ・デ・ラ・コンセプシオン号、エル・セニョール・サンミゲル号の4隻はいまだに行方不明のままだ。

金で作られた古代ペルーの仮面。言い伝えの通りなら、こうした値段の付けようもないほどの芸術品が、悲運なサンミゲル号と共に海の底に沈んでいるのかもしれない。 (Photograph by Carlos E. Santa Maria/Shutterstock)
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 サンミゲル号はスペイン財宝船団の中で最速の船だったと考えられている。7月30日には、ほかの船を遠く引き離して快走していたという。天候の変化にも機敏に対応でき、海賊船の船足より速いことが重要となる当時の航海では、サンミゲルのような高速船に一番多くの財宝を積み込むのが、理に適っているはずだ。このことから、サンミゲル号は史上最も莫大な金銀財宝を積んだ難破船だと考えられている。

 残念ながら、その宝船がどこに沈んでいるのかは誰にも分らない。だからこそチャンスがあるといえるのかもしれないが……。

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