――写真集『極限高地』には、3高地3様の宗教儀式が描かれています。そもそも「祈り」は、野町さんが長く追い続けているテーマですね。

 高地に限らず、生活環境の厳しい土地に暮らす人々は、人知を超越した存在に何ごとかを願い、託さなければ生きていけないということが、まずあります。

 日本の場合は一般に、宗教というと日常から離れたものという感覚がありますし、祭礼や葬儀などでも、非日常的な行事と受け止められているでしょう。でも、辺境の人々にとっての宗教は違うんです。生活そのものが宗教とともにあるんですよ。僕たちの目から見れば、奇習と映るものも多いのですけれど。

――写真集に、山道を這う男性の写真がありましたが、あれも宗教にかかわるものなのですか。

 五体投地と言って、五体すなわち全身を地面に投げ伏して祈る礼拝法です。体を前に倒して地面にひれ伏し、手の届いた場所に足をもって行って、その場に立ち、またひれ伏す。これを繰り返して尺取り虫みたいな動きで進むのですが、チベット仏教では最も丁寧な礼拝法とされています。

 チベットの寺院に行くと、ふつうに見られますよ。写真集に載せた五体投地は、チベット仏教の聖山、カイラスで出会った巡礼者です。

[画像をタップでギャラリー表示]

野町和嘉 写真集『極限高地 チベット・アンデス・エチオピアに生きる』
標高4500メートルの高地で暮らす人々がいる。チベット、アンデス、エチオピアの3カ所は、人間にとって限界に近い高地だが、その地に暮らし、独自の文化を育んできた人々がいる。 一般的に高地は酸素が薄く、植生に乏しく、人が暮らすには向かない土地だ。だが、この3カ所は恵まれた自然条件や、長年かけて培った知恵によって、人々が暮らすことができた。しかも、低地にはない独自の文化を築き、奥深い伝統を保っている。高地の独自性に魅かれ、この3地域をめぐった写真家、野町和嘉が、極限の地の生活と雄大な自然を活写する。
出版社: 日経ナショナル ジオグラフィック社 価格:本体4600円+税 7月6日発売 ナショジオストア  アマゾン  

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る