第3回 イルカは人と同じようにものを考える?

 読者諸賢の中にはここまでの実験の紹介で、「賢い馬ハンス」のことを思い出した人がいるのではないか。19世紀末から20世紀初頭にかけて「活躍」したドイツの天才馬で、ドイツ語を理解して、計算もできるとされた。のちに、ハンスは、観客や飼い主、出題者の反応を見て、答えを当てていたことが解明された。実際、人々の反応を見ることが出来ない状態では、正答をほとんどできなくなった。人々の反応を見て回答するというのは、別の意味で賢い馬と言えるわけだが、ドイツ語を理解したり、計算できたりするわけではなかったのだ。これは「クレバー・ハンス効果」などとも今は呼ばれている。

 イルカの研究では、この点があまり考慮されない事例が見られるが、村山さんは最初から自覚的に取り組んでいた。

「私、鴨川だけじゃなくて、いろんなとこで実験をやってるんですけども、人が回答のパネルとかを自分で持っていると、厳密な実験じゃなくなってしまうんです。成功したらエサをあげる、というやり方をしますね。それで、正答する前に、ちょっと肩を引いたり、予備動作が出てしまう。失敗しそうになったら、成功するまで、つい待ってしまうとかもあります。それで、人間が直接関わらない呈示装置を作る必要がありました。ナックの実験で使っているのは、吻(ふん)タッチャブル、と言ってまして(笑)、吻で触れる呈示装置です。ここまでやって実験している人たちって、正直、他には知らないんですけど、これはやらなきゃならないことなんです」

イルカが吻(ふん)で触って答えを示せるようにした吻タッチャブルの呈示装置。たとえば、ライトを点けて実験開始の合図をしたあと、フィンを示して⊥とRのどちらかの文字を吻で触って選ぶという手順になる。
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