第7回 諸野祐樹 海底下の生命探し、何より根気が必要

「このシフトが終わったらピンポンしよう!」

 船に乗ってきたときには素人同然だったエリザベスは、スポーツ万能の堀君に鍛えられ、いまや僕より上達している。12時間働いて12時間休む。卓球やジムで汗を流したほうがよく眠れるので、シフト交代して仕事が終わったら、陸では忙しくてなかなか出来ないスポーツがここでは日課だ。昨日はフィリピン人のクルーと対決。彼らが繰り出すスピンボールは変幻自在、まともに打ち返すことすら出来ずに完敗した。共同首席研究者のカイさんも卓球好き、しかも負けず嫌いだ。大人気(おとなげ)ないサーブがジャンジャン飛んでくる。他にもテーブル・フットボール(フーズボール)があって、こちらでもカイさんの稲妻シュートが炸裂(さくれつ)している。結局彼には航海中誰も勝てなかった。こうやって体を温めてからベッドに入ると翌日の目覚めが爽快になる。健康維持も航海中の大事な仕事の一つだ。

大人気ないサーブを打つ寸前のカイさん。(提供:産業技術総合研究所 森田澄人)
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堀君と二人がかりで立ち向かっても、テーブル・フットボールでカイさんに勝てない筆者。(提供:産業技術総合研究所 森田澄人)
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長い戦い

 微生物を数えること。これはもちろんとても大事なことで、このデータがあって初めて微生物に関する議論がスタートするといっても過言ではない。しかし、今回の相手は東京ドーム全体に散らばっている100個のパチンコ玉くらい少ない微生物。しかも周りには100万倍の数の微生物がべっとり。試料を取り分けたり、砕いたり、作業をする際に、ほんのちょっとだけでも微生物が混じれば、海底下から採取した微生物の数を上回り、地上の微生物が試料を汚染してしまう。

 残念ながら、顕微鏡での見た目だけでは汚染微生物か、海底下の微生物かの見分けはつかない。可能な限りクリーンな環境で実験していたとしても、依然として汚染の可能性は残っている。科学掘削で初めて到達する大深度に存在する生命の証拠として、そんなことでは世界の研究者は納得しない。そのため、陸のラボに帰ってから、さらに詳しく微生物のDNAを探り、注意深く解析を繰り返すことが必要になる。船上では、掘削直後の状態を出来るだけ維持しつつ、陸上の解析がうまく進むように試料を持ち帰ることが大事である。そのために、試料の表面をナイフで削って、汚染微生物を含む表面部分を削り取り、あるものは即座に凍結、あるものは窒素ガスを吹き入れ、酸素を除いて冷蔵、あるものはハンマーで細かく砕いて、ガラス瓶に入れる。たくさんの分析機器を持ち込んでいても、航海は68日しかない。僕らの研究は航海の後もまだまだ続く。