第7回 諸野祐樹 海底下の生命探し、何より根気が必要

再び「ちきゅう」へ

 あれから1年半、僕は再び「ちきゅう」の船上に降り立った。地震による津波でダメージを負った「ちきゅう」は、そのまま航海を実施できる状態ではなかった。また、修理後には齋藤実篤さんが本リレーブログ第3回で語られた、緊急性の高いJFAST掘削航海が実施され、僕達が参加する航海がその後に再スケジュールされたのだ。

 実は、僕の乗船は、2012年7月30日に乗船した他の科学メンバーより数日遅かった。というのも、3番目の子どもを妊娠していた妻の出産予定日が8月2日であったため、共同首席研究者の稲垣史生さん、研究支援統括(EPM)の久保雄介さん他、たくさんの方にご配慮いただいて、乗船日を8月3日として頂いていたからだ。予定日を過ぎても生まれなかったら仕方ない、と腹をくくっていたところ、そんなピリピリした雰囲気を察してか、一週間以上も早い25日に出てきてくれた。おかげで子供を抱っこすることを諦めることなく、妻が退院するまで付き添うことが出来た。今では3歳の女の子に成長したその子は、まだこのことは知らない。いつか、理解できるようになったら説明してあげたいと思う。

 後ろ髪をひかれつつ生まれたばかりの娘と家族に別れを告げ、八戸にやってきた僕にもう一つのプレゼントがあった。8月2日は八戸三社大祭の真っ只中だったのだ。ホテルの窓からは特等席で祭りの山車を見ることができ、初めて体験する東北の祭りの雰囲気を堪能し、翌朝、気持ちよくヘリコプターに乗り込んだ。

海底下の生き物を探し出す

 さて、IODP 337次掘削航海での目的は、番外編で稲垣さんが語られたとおり、下北半島沖の海底地層を約2.5km掘削し、大深度の海底下に生命は存在するのか? 存在するとしたら、どんな生命が何をしているのか? を明らかにすることにあった。番外編を読まれた方はご存知の通り、実際に生命が検出され、大深度の海底下でひっそりと進む微生物の活動の一端が垣間見える結果が得られた。しかし、その結果を得るのはそんなに簡単ではなかった。

世界一困難なミッション

 僕に与えられたミッションは「海底下深部の微生物生命を見つけること」。これって意外と大変なのである。「1立方センチメートル(角砂糖くらい)あたり100を下回る、ごく微量の微生物しか含まれていなかった(稲垣さんブログより)」。さて、これって現実の世界で考えるとどんな感じになるだろうか? 分かりやすい例を挙げよう。よく「東京ドーム何杯分」とかあるので、東京ドームで考えてみる。「1立方センチメートルあたり100個の微生物」は「東京ドーム(グランドから客席まで、地面から屋根までの全ての空間)に、100個のパチンコ玉があること」に相当する。もちろん、パチンコ玉が微生物だ。東京ドームと違って海底下試料ではその空間を満たしているものが泥や石である。想像してみて欲しい。東京ドームが土砂で満たされていて、その中にパチンコ玉100個が埋もれている。このパチンコ玉、普通に考えると見つけることはかなりの難題であることを理解していただけるのではないだろうか?

 さらに、このミッションにはもう一つの難題がある。外界からの汚染だ。今回の海底下掘削には第4回ブログで澤田さんが語られたライザーシステムという、大深度用の特別システムを用いるのだが、これに用いられる泥水(でいすい、どろみずではない)と呼ばれるドロドロした液体にたくさんの微生物が混じっていることが分かっている。その数、1立方センチメートルあたり1億個以上。先ほどの東京ドームを掘削コアに見立てると、中にあるパチンコ玉の100万倍が外にびっしり張り付いている感じ。この他にも人間の手やエアコンからの空気、実験テーブルなどなど、海底下微生物を覆い隠してしまう汚染源はそこら中にある。まさに汚染との戦いである。

コアから滴り落ちる泥水(でいすい)。この中には1立法センチメートルあたり1億個以上の微生物が混じっている。(提供:Luc Riolon & Rachel Seddoh)
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