JAMSTECの地球深部探査船「ちきゅう」の乗船研究者や技術者によるリレーブログ。第5回は南海トラフの地震発生帯掘削計画で共同首席研究者を務めた東京大学大学院理学系研究科の木村学教授が登場。1944年に巨大地震と津波を発生させた断層の特定とコア試料の採取に世界で初めて成功。その成果により、発生が想定されている南海トラフ巨大地震の最大リスクがマグニチュード8.7から9.0に引き上げられることとなった。(編集部)

南海トラフの地震発生帯を掘削する研究航海中の「ちきゅう」。掘削やぐら(デリック)の上から前方を見渡すと、大海原が広がっていた。(提供:JAMSTEC/IODP)
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 2007年12月19日、統合国際深海掘削計画(IODP)の南海トラフ地震発生帯掘削計画は、1944年に東南海地震を起こした断層の掘削にいよいよ取り掛かった。今回の掘削の目的は、大地震を引き起こした地質学的特徴やメカニズム、過去の変動の歴史などを知ることだ。

「ちきゅう」乗船の翌日(12月20日)は、偶然にも私の誕生日。「ちきゅう」上では、航海中の研究者の誕生日には必ずサプライズなお祝いが企画され、誕生日ケーキが用意される。しかし、初対面の研究者同士がまだ馴染んでいない航海2日目が、首席研究者である私の誕生日だなんて、やりにくい。なにか喉を潤すものがあれば、研究者の相互理解が進み、逆に良い機会となるのに、「ちきゅう」は完全禁酒船。致し方ない。

いよいよ断層帯の掘削へ

 さて、最初の掘削目標はいきなり分岐断層(断層から枝分かれした断層)の試料回収である。同年9~11月の第1次航海では、掘削孔の周りの地層や岩盤の物理的性質と状態を知るための測定が行われた。しかし、断層掘削では大変難航し、掘削孔に測定機器を捕まえられ、回収できなくなるという事故が発生していた。やむなく測定機器を切り離さざるを得なかった。

 その苦い経験から、断層試料の回収のために、海底下のもう少し浅いところで断層に到達する地点に掘削孔を移すこととなった。断層、それも地震を起こした活断層なのであるから、地層や岩石はただでさえ破壊されグサグサになっているはず。普通の石油のための掘削では、そのようなものは回収しない。回収しないどころか掘削さえ避ける。その避ける試料こそ、私たちが最も欲しい科学的材料なのだ。

 12月24日のクリスマスイブ。地上の世界では楽しい時。でもその日にいよいよ海底下300メートルほどの断層に到達することとなった。掘削開始後5日目にして船内は大きな緊張に包まれた。掘削技術者も研究者も船の運行者も、そして陸上から逐一進行状況を注視しているすべての人の見守る中で、断層を掘り抜いた。「やったぞ!」

 掘削パイプの帰還が始まった。「大丈夫! 上がってきています!」。掘削総責任者の澤田の声が響く。僭越ながら、首席の私としてもドキドキである。

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