番外編 稲垣史生「海底下に世界最深の生命圏を発見」のここがスゴイ!

 さらに、地層サンプルから直接DNAやバイオマーカーを抽出して調べたところ、海底下数百メートルまでの地層に生息する典型的な海底下微生物とは全く異なる、湿地や森林土壌に生息する微生物に似たDNAの塩基配列や、生きたメタン菌のみに由来するバイオマーカーが確認された。

 これらの複数のデータは、2000万年以上前に湿原や森であった地層が日本列島の形成と同時に海に沈んでもなお、「海底下の森」として天然ガスや石炭の形成プロセスといった炭素循環に重要な役割を果たしていることを示している。

 また、海の堆積物にいる微生物ではなく、湿原や森などの陸の堆積物に一般的に生息する微生物が検出されたことは、太古の微生物生態系の一部が地質学的時間スケールで保持されている可能性が高い。地球内部における生命および生態系の進化を解き明かす上で、極めて重要な発見であると思われる。

3 2000万年以上前の地層から世界最深の海底下微生物の培養に成功

海底下約2kmの石炭層のコアサンプルから、バイオリアクターを用いて培養された世界最深の海底下微生物群集の走査型電子顕微鏡写真。石炭に膨大な数の微生物が付着し増殖している様子がわかる。右下のスケールは5㎛。(写真提供:井町寛之/海洋研究開発機構)
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 これまでの研究から、海底下の住人である微生物を実験室内で分離・培養することは難しいと言われてきた。極めてゆっくりとした代謝で生きている(もしくは生存している)超スローな生命だからだ。

 しかし、共同研究者の井町寛之主任研究員(海洋研究開発機構)は、水質処理工学の分野で実用化されているウレタンスポンジを詰めたバイオリアクターを使って、海底下約2kmの石炭層サンプルから微生物を培養することに成功した。これまでの深度記録を約10倍更新する快挙だ。

 まず、ウレタンスポンジに石炭層サンプルをパウダー状にしたものを含ませ、現場温度に近い約40℃の無酸素環境でリアクターを運転した。約1カ月後、リアクター内でわずかなメタンが生成されていることを確認。およそ900日後、スポンジに付着させた石炭層の粒子を電子顕微鏡で観察したところ、大量の微生物が石炭層に付着して増殖していることが確認された(上の画像)。

 さらに、培養された微生物にCO2を添加し、超高空間分解能二次イオン質量分析器(NanoSIMS)を使って元素イメージ分析をしたところ、添加したCO2を取り込んだ微生物が確認された。

 これらは、地中深くの石炭層にCO2を食べてメタンを生成するメタン菌や、CO2を取り込んで固定するタイプの微生物がいることを示す証拠となる。地上の森林土壌と同じように、地球の炭素循環に大きな役割を果たす「海底下の森」が見事に実験室内に再現されたのである。

 約2000万年以上前の地層から、世界最深となる海底下微生物群集を培養できたことで、地球内部の生命の進化や機能などについて新しい研究が進み、今後、未だ知られていない新しい発見があるだろう。