番外編 稲垣史生「海底下に世界最深の生命圏を発見」のここがスゴイ!

IODP第337次研究航海「下北八戸沖石炭層生命圏掘削」プロジェクトの国際チームの乗船研究者一同。(写真提供:海洋研究開発機構)
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 これらの環境条件を考えると、海底下1.5km~2.5kmの深部にも生命は存在するはず。そんな仮説のもと、2012年の「ちきゅう」の掘削航海から約3年間、乗船研究者を含む40名を超える国際研究チームが「ちきゅう」で採取された地層サンプルやガスを最先端の手法で解析してきた。その結果、海底下生命圏について大きく三つの発見があった。

1 生命圏の限界に近い世界最深の海底下生命圏を発見した
2 海底下生命が石炭から天然ガスを作る「海底下の森」を見つけた
3 2000万年以上前の地層から世界最深の海底下生命の培養に成功した

 詳細は科学誌「サイエンス」(2015年7月24日オンライン版)に発表したが、ここではその要点について簡単に紹介したいと思う。

1 生命圏の限界に近い世界最深の海底下生命圏を発見

 地層サンプルに含まれる天然ガスやCO2の化学分析の結果、深さ約2.5kmまでの地層に、現場の微生物が有機物を分解し、最終的にメタンを作り出したことを裏付ける証拠となるデータが得られた。つまり、海底下2.5kmというこれまでで最も深いところに生命が存在することが証明されたわけだ。

 ところが、微生物の数は予想よりずいぶん少なかった。

 太平洋沿岸の海底下数百メートルまでの地層、つまり海底下の浅い地層には、1cm3(立方センチメートル)あたり10万を超える大量の微生物が生息していることがわかっている。ところが、今回採取した深さ1.5kmを超える地層サンプルには、1cm3あたり100を下回る、ごく微量の微生物しか含まれていなかった。

 これは予想をはるかに下回る数字だった。地温が60℃以下と生命が生息可能な範囲であるにもかからず、これほどまでに微生物が少ないことから、我々はこの環境が海底下における「生命圏の限界域」であると考えている。どうしてこんなに微生物が少ないのか、そしてどうして「生命圏の限界域」に達したと考えられるのか。直接的な証拠を示すことは難しいが、考えられる要因はある。それについては後ほど説明することにして、まずは次の発見の解説に移ろう。

2 海底下生命が石炭から天然ガスを作る「海底下の森」を発見

 さきほど、海底下1.5km~2.5kmにはごく微量の生命が暮らす生命圏が見つかったと説明したが、今回そのなかに、周囲の100倍ほど多く微生物が生息している「海底下の森」を発見した。

 海底下には天然ガス・メタンハイドレートや石炭など、エネルギー資源となる物質が眠っている。それらの炭化水素資源の形成プロセスに、微生物による生命活動がどれほど関わっているかは不明な点が多い。

「下北八戸沖石炭層生命圏掘削」プロジェクトでは、海底下生命圏の限界に近い環境でありながら、深さ約2kmにある褐炭と呼ばれる未成熟な石炭層には、その周辺の地層に比べて100倍程度多い微生物が生息していることが判明した。つまり、そこには石炭層を栄養・エネルギー源とする微生物が生息しているということだ。