第4回 澤田郁郎 科学を支える“掘削の親分”
「ちきゅう」で最初に仕事をする時に、上司から言われていた「研究者は掘削のことは何も知らないから・・・・・・」というのは全くまちがっているというのは、最初の科学航海で辛い思い出とともに学んだ。では、その後どのように研究者と一緒に仕事をしてきているかというと、まず大事なのは、「リスペクト」ではないかと思う。これは普通に仕事をしていても当たり前のことと言えばそうなのだが、お互いの立場・仕事を「リスペクト」するところから、人間関係は始まる。ここで言っている「リスペクト」とは、相互に信頼・信用・理解することである。
例えば、こんなことがあった。「ちきゅう」の科学掘削プロジェクトは、多くの場合、複数年、複数航海にまたがることになる。そのため、プロジェクトごとに、研究者と我々のスタッフで、プロジェクトを管理するグループを作って、科学計画、掘削計画、乗船研究者の選定などを行うことになっている。初めてそのグループの会議に参加した時のことだった。会議が開かれたのはドイツのブレーメンで、1日目に研究者から新しい要望が出た。掘削計画の変更が必要だ。このような状況に直面したとき、それまでのJAMSTECの地球深部探査センター(CDEX)では、「宿題」として持って帰り、次の会議で回答すると答えるのが常であった。そして、「宿題」は往々にして忘れられてしまう。これでは「リスペクト」されるわけがない。俺は、その夜のうちに、新しい掘削計画をつくり、翌日の会議で発表した。これまでを知っている研究者たちは驚いた。JAMSTECもやればできる!
逆もまたしかり。最初の頃は、こちらが提案する掘削計画に疑問を呈していた研究者たちが、我々JAMSTECの掘削チームがやりやすい方法を提案してくれるようになる。予算が厳しい中で、どのサイエンスを優先するのか、それまではすべての提案を叶えてもらうのが当たり前だ、と思っていた研究者たちから提案が出てくる。
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