ところで、研究者は船に乗って調査をしたり、研究室で論文を書くだけではない。国際科学プロジェクトを運営・維持していくのも科学者の仕事だ。その一つに、さまざまな国際委員会がある。

「サニー、ちょっとこっちへ来い」
「おまえが次の議長だ。わかってるな? もう逃げられないぞ!」

 IODP(国際深海掘削科学計画)の科学技術パネルにたまたま代理委員で出席した時のことだった。懇親会の会場で、がたいの大きな英国人(議長)と米国人(副議長)が私を会場の隅に追い込み、恐ろしいほどの圧迫感で迫ってきたのだ。その後私は2008年から2012年まで科学技術パネルの副議長、そして議長を務めることになる。このプロジェクトにどのような新技術を取り入れ、どのような掘削・計測を行い、どのようにデータの信頼を高め、データの共有・発信を行うか、といったことを議論する委員会である。実は私がここで学んだのは議長としての会議の進め方である。

・委員は手を上げ、議長に指名されなければ発言できない。
・同じ委員が二度続けて発言することはできない。
・議題において利益相反がある委員はあらかじめ申告させる。
・非英語圏の委員が理解しやすいようにゆっくりとシンプルな英語を話させる。
・会議の合意事項に通し番号を付け、全員が納得する文章を作成した上で議決投票する。

 これらは一例であるが、こうしたルールにのっとり、議長は会議を厳格に運営する。極めて当たり前のことのように思えるが、「何も決めない会議」「無秩序に発言する会議」などを見聞きするにつけ、この原則の大事さを思い起こす。この国際プロジェクトをより良いものにしたいというメンバーの共通認識と信頼関係によって会議は成り立っていること、そして会議前や会議中の立ち話による交渉(いわゆるロビー活動)も極めて重要な要素であることも学んだ。江口氏とともに、こうした委員会活動によって科学プロジェクト運営の肝を学び、プロジェクトを牽引していく上での大きな自信となったと思う。

2010年から統合国際深海掘削計画(IODP)の科学技術パネルの議長を務め、2012年9月、米国オレゴン州立大学で行われた会議(写真)で議長を退任する。英語が堪能ではなくても、会議運営の技量や議論の落とし所を押さえていれば、日本人でも国際会議でリーダーシップを発揮することができる、という自信をもてた2年間だった。(提供:斎藤実篤)
2010年から統合国際深海掘削計画(IODP)の科学技術パネルの議長を務め、2012年9月、米国オレゴン州立大学で行われた会議(写真)で議長を退任する。英語が堪能ではなくても、会議運営の技量や議論の落とし所を押さえていれば、日本人でも国際会議でリーダーシップを発揮することができる、という自信をもてた2年間だった。(提供:斎藤実篤)
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 さあ、そろそろ私の話はおしまいにしよう。ブログのバトンを次に渡すのは、「ちきゅう」の運用責任者、澤田郁郎氏。「東北地方太平洋沖地震調査掘削(JFAST)」をはじめ、困難なミッションを支えてくれる船上技術者たちのリーダー、いわば“掘削の親分”だ。

斎藤 実篤(さいとう さねあつ)

1993年東北大学大学院理学研究科博士課程修了。専門は海洋地質学。1997年より東京大学海洋研究所で助手を務めたのち、2001年にJAMSTECに移籍。2004~06年は統合国際深海掘削計画(IODP)の中央管理機関組織で札幌オフィス所長代理としてプロジェクトマネージメントを行う。1993年以来、米国の掘削船「ジョイデス・レゾリューション」と「ちきゅう」に10回以上乗船し、世界各地のプレート境界で断層を見つけ出す「断層ハンター」として活躍。国内外の関係者からは “Sanny”と呼ばれる科学掘削船の“常連”だ。2009年には南海トラフでの掘削航海で主席研究員を務め、研究チームを指揮。2010~12年には科学技術パネルの議長を務める。

地球深部探査船「ちきゅう」

2005年7月29日、建造完成。科学的調査や研究のために海底下7000メートルまで掘削することが可能。世界トップクラスの掘削能力を使って、地中深くからコアサンプルを採取し、地球の内部構造や巨大地震発生のメカニズム、生命誕生の謎などを解き明かそうとしている。2007年からは、日米が主導する統合国際深海掘削計画(IODP)の主力船として、南海トラフ地震発生帯や下北半島八戸沖の石炭層、東北地方太平洋沖地震の発生帯、沖縄熱水海底下の生命圏の掘削を実施してきた。究極の目標は、人類未踏のマントル到達だ。 全長:210メートル(新幹線約8両分)●幅:38メートル(フットサルコートの長さ)●船底からの高さ:130メートル(30階建てビル)●国際総トン数:56.752トン●最大乗船人員:200人●航海速力:12ノット(時速約22キロ)●航続距離:約14,800海里(27,410キロ)

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