掘削同時検層が始まると、「ちきゅう」船上には計測された地層の電気抵抗(地層の硬さに反応)と自然ガンマ線(地層中の粘土に反応)のデータが即時に伝送され、研究室の大画面に表示される。船上の研究者は1分ごとに海底から送られてくるデータを凝視しながら、断層の気配を探る。しかし、いくら待っても、その兆候は現れてこない。

「なあサニー、断層はまだか?」(「サニー」とは、私の愛称)
「もうちょい待って。そろそろ出てくるはず」

 しかし内心では、もし断層の兆候が何も出てこなかったらどうしようという焦りが隠せない。そして掘削を開始して丸一日が経過したころ、海底を820メートル掘ったところで自然ガンマ線の値がこれまでになく大きく上昇する地点に到達。「よし来た!」「ここが粘土層だ!」という声が上がる。すべりやすい断層粘土層に突入した瞬間だ。ちょうどその時だった。このプロジェクトの取材のために乗り込んでいたテレビ局のクルーが、断層貫通でざわめき立つ研究室に入ってきたのだ。ありえないほどピンポイントのタイミングで。私はそこで取材を受け、「硬い地層の上に粘土層が重なっている部分が極めて怪しい。そこで断層がすべった可能性が高い」と興奮して説明したのを今でも鮮明に覚えている。(後日その部分が夜のニュース番組で放映された)。航海半ばの25日目のことであった。

海底下で計測された電気抵抗や自然ガンマ線のデータはリアルタイムに船上に伝送さる。船と海底下はドリルパイプ1本でつながっているだけだ。測定値はドリルパイプ内を伝わるパルスに変換され、それをデコードして研究室のモニターに計測値として表示される。地層の変化や断層の存在を見つけ出しては得意げな表情を見せる私。(提供:斎藤実篤)
海底下で計測された電気抵抗や自然ガンマ線のデータはリアルタイムに船上に伝送さる。船と海底下はドリルパイプ1本でつながっているだけだ。測定値はドリルパイプ内を伝わるパルスに変換され、それをデコードして研究室のモニターに計測値として表示される。地層の変化や断層の存在を見つけ出しては得意げな表情を見せる私。(提供:斎藤実篤)
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 次なる難関は断層サンプルの回収だ。船から下ろすドリルパイプの先端に、真ん中が空洞になっているドリルを取り付けることで円柱状のサンプルを掘り出すことができる。海底から約10メートルごとに円柱状に掘り抜いては岩石をワイヤーで引き揚げる作業を繰り返し、820メートル付近の断層を目指した。サンプル回収の際に我々は2つの深刻な問題に直面した。

 一つは地層の特性だ。もろい地層ゆえにドリルで掘り抜く際に崩れてしまい、サンプルを取りこぼしてしまうのだ。断層が近づくにつれ、地層は予想以上に掘りにくく、サンプルの9割を取りこぼすという困難な状況が続いた。

 もう一つは時間との闘い。それまでに荒天による作業の中断や技術的なトラブルの修復で多くの日数を費やしたため、サンプリングに残された作業日数は10日間しかなかったのだ。技術者と科学者は限られた日数で確実にサンプルを回収するために知恵を絞り、ドリルの回転速度やドリルへの荷重を調整し、数メートル刻みの慎重なサンプル回収を試みた。この回収方法をとるためには非常に厳しい判断を迫られた。小刻みに掘削すればより確実にサンプルを回収できるが、1回のワイヤーの上げ下げに6時間以上の時間を要し、航海日数のリミットまでに断層まで到達できない可能性がでてくるからだ。

 断層の予想深度に近づくと、「もうそろそろだろう」「きっと次のサンプルが断層に違いない」という会話を繰り返すのだが、なかなか断層に届かない。「このまま断層が現れなかったらどうしよう。もう通過して取り損ねてしまったのだろうか」という不安が頭をよぎる。

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