そう、こうして実際の航海がようやく始まる。共同首席研究者(CDEXによって選ばれた、乗船研究者のトップになる人たち。通常はプロポーザルの主提案者であるが、いつもそうとは限らない)とはプランニング時期から同じテーブルでずっと仕事をしてきているので、この時点では「つうかあの仲」になっているが、乗船研究者の中には初対面の人もいる。もちろん、乗船自体が初めての人もいる。不安な人が誰もいないように、研究者チームがチームとして機能するように、紋切り型の対応では数カ月続く航海は乗り切れない。相手の性格やコミュニケーション能力の程度をきちんと見極めて、テーラーメイドな対応が求められる。これには、自分と乗船研究者の関係を構築するだけではなく、乗船研究者同士の関係を作ることも含まれる。ここも黒子になって、研究者同士をつないでいく。アナログに聞こえるとは思うが、この人間関係の調整が、その航海を成功に導き、船を下りた後の研究にも影響すると思っている。

船上にもサンタクロースがやって来る。オペレーションは盆も正月もなく続けられるが、乗船研究者たちはEPMやMWJのテクニシャンたちと一緒にイベントを企画し、開催する。誕生日会、前回お話しした卓球大会、クリスマスやハロウィーンパーティーなど。残念ながらお酒は出ませんが、同じ船に乗り合わせた仲間同士の格好の交流の場となる。
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 海底に孔を掘って研究を行う海洋科学掘削には、さまざまな人々が関わっている。JAMSTECはもちろん、世界中の研究者、お金を出す立場の各国政府の人々、そして、その国々で税金を納める人々。研究航海の成果は、その航海に乗った研究者だけのものではなく、巡り巡って、人類にフィードバックされる。一見ハイテクで日常から離れているように見える海洋科学掘削ではあるが、それを動かしているのは人であり、そこにはいつでもいろんなドラマが起こっている。

 ときどき自分がなんでこの仕事をやっているのだろう、と自問することがある。一番簡単な答えはたぶん、「地球科学が好きで、人が好き」となるのかな? と思う。研究者としての専門性は自分にはないのだが、逆に言えば常に最先端の掘削科学の現場にいられること、そして、いろんな人々に出会えること。科学マネージメントを始めた最初の年に、数えてみると100人以上の世界中の研究者と出会った、そのほとんどは初対面である。それから数十年、最初の年に出会った多くの人々とは今でも親交があるし、その後も新しい人々と出会い続けている。

 ちょっと自慢っぽくなるが、海洋科学掘削に関る世界中の人々の間でNobuを知らない人はたぶんそんなにいないのではないかと思うのだ。一時期研究者をやめたいと相談していた若手の研究者が、気がつくとその道で大きく育っていたり、学生で乗船した研究者が大学で職をえて、自分の学生を連れて乗船してきたり、ちょっとお父さん気分になることも楽しみである。乗船中は寝る暇もなく、何をやってるんだろう? と思うことがないわけではないが、少なくとも今のところ、楽しく仕事をしている(と言っても、実は最近は陸でのマネージメントが増えて、実際の乗船はほとんどなくなりつつはあるのだが)

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