研究者の提案は、数十ページに及ぶ書類から始まる。世界中の研究者から提出されるこの書類は「プロポーザル(掘削提案書)」と呼ばれ、世界の海洋のどこで、海底下をどれだけ掘ると、どんな新しいことがわかるのか(わかるはずなのか)が書かれている。年間20編以上が出されるプロポーザルを、各国から選ばれた研究者たちが評価をする。評価が高かったものだけが、掘削航海として実行され、プロポーザルに書かれた仮説が、本当に正しかったのかどうかが明らかになるのだ。

 このプロポーザルを受けて行われるオペレーションのプランニングには、主に次のような要素が含まれる。
(1)科学計画:船上でどんな分析を行うのか、航海後にどんな研究を行うのか?
(2)掘削計画:科学目標を達成するために、どのように海底に孔を掘るのか?
(3)技術開発:科学目標達成のために、どんな機器を開発するのか?
(4)ロジスティックス:船への人や物資の移動をどのように行うか?
 このようなプランニングを通常は年単位の時間をかけて行っていく(ところが、非常にチャレンジングな冒頭の日本海溝の掘削のプランニングは、1年弱しかなかった)。

 僕が務める研究支援統括(EPM)の二つ目の仕事である「科学掘削航海のプランニング」は、研究航海を提案した研究者の「黒子」として、プランニングのそれぞれの分野をつないでいくことだ。科学計画は世界から選ばれた研究者やラボテクニシャンと、掘削計画は掘削チームの人々と、技術開発は技術開発チームの人々と、そしてロジスティックスは運航チームの人々と、といった具合だ。それぞれの分野を有機的につなぐこと、そして、なかでも科学計画を組み立てるのが、EPMの大事なお仕事である。

 各国の研究者との打ち合わせは、今ではeメールが当たり前ではあるが、顔を実際に合わせて話をすることの大事さは今も昔も変わらない。そのために、世界各地で開かれる会議に出席することになる(多いときは年間10回程度)。一度顔を合わせて話をすると(ついでに言うと、夜には酒を酌み交わすと)その後のeメールやスカイプでのやり取りは、驚くほどスムーズになるのだ。こうして進めていく科学計画の作成であるが、その中の一つに船上での分析項目というのがある。「ちきゅう」は掘削するだけではなく、船上で科学分析ができるのだ。

国際会議は世界中のいろいろなところで開かれる。これはベルギーのゲントという町にあるゲント大学での会議風景。ヨーロッパの大学は古い建物が残っていて、会議場も趣がある。が、冷房設備がなくて暑い思いをすることも…・・・。会議は英語で行われ、議事メモを英語で取れるようになると、ちょっと一人前になった気がする。こうした会議を通じて、世界中の研究者たちと顔見知りになる。
[画像をタップでギャラリー表示]

 「ちきゅう」の掘削性能・操船性能は石油・ガスの掘削に使われるものと同じである(実際、「ちきゅう」は時折そちらのお仕事をすることもある)。しかし、「ちきゅう」が地球深部探査船と呼ばれるのは、船上に「研究区画」という研究施設を備えているからである。人呼んで、「浮かぶ研究所」である。

 この「研究区画」では、掘削で得られる「生もの」、つまり地層中に含まれる微生物や水などをサンプル取得後すぐに分析する。科学掘削の航海では、30人弱の世界中の研究者がこの「研究区画」で各種の分析を行い、レポートを作成し、陸上にある自分の研究室でさらに詳細な研究を行うためのお持ち帰り用サンプルの採取を行うことになる。

 これらの分析・サンプリングの準備など、それぞれの研究航海の科学目標を達成するために、どのような船上分析を行うのか、その分析に必要な機器、薬品、消耗品のお買い物計画も立てなくてはいけない。乗船研究者のチームを作ることも、EPMの大事なお仕事だ。この乗船研究者のチームをつくるのに考えなくてはいけないのは、専門性、年齢、性別、どこの国の研究所・大学からきているのか、などである。

 専門性の重要性はわかると思うが、実は年齢や性別もけっこう大事である。シニアな研究者は航海の成功を目指す上では重要であるし、若手の研究者はシニアな研究者から学んで、次の世代を構築していくことになる。男女比も全体の雰囲気を作っていく上で大事である。このような条件を考慮しながら、共同首席研究者といっしょにチーム作りをしていくのもEPMのお仕事である。

☆「ちきゅう」トリビア☆

「研究区画」の運用・管理を任されているのは、マリンワークスジャパンという会社のプロのラボテクニシャンたち。彼ら・彼女らが研究区画にある数々の分析機器の保守・運用を行い、航海で取れたサンプルを分析して乗船研究者にデータを手渡していく。船上で書かれる航海レポートの編集も彼ら・彼女らの仕事だ。彼ら・彼女らの出すデータがあるから、安心して研究ができると、乗船研究者たちから高く評価されている。ラボテクニシャンたちに指示を出すのもEPMのお仕事だ。

採取した試料を研究用に整理するマリンワークスジャパンのテクニシャン。彼ら・彼女らの活躍が「ちきゅう」の科学掘削を支えている。
[画像をタップでギャラリー表示]

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る