第2回 江口”Nobu“暢久 「研究支援統括(EPM)」って何?~その2~
JAMSTECの地球深部探査船「ちきゅう」の乗船研究者などによるリレーブログ。第1回に引き続き、研究支援統括(EPM)を務める江口暢久さんが科学掘削船の舞台裏を教えてくれます。「ちきゅう」は、世界中の科学者たちから出される提案をもとに、掘削航海を実施しています。そのプランニングから実施、船上での研究を「黒子」として支えるのが、EPMの重要なお仕事の一つ。巨大科学掘削船が最大限の成果を上げられるように、“よいしょ”と支える「研究支援統括」のお仕事について、江口さんに教えてもらいます。(編集部)
東北地方を巨大な地震と津波が襲ってから2カ月後、僕はある国際会議に出席していた。
「……ということで、この航海に求められるのは、水深約7000メートルの海底から、1000メートルほど掘削して地震で動いた断層を採取し、その断層に残っている摩擦熱を測るために温度計を設置することです」
ある米国人研究者がこう発言した。震災後すぐに、研究者たちはあの津波を起こした断層が、どういうものであったかを明らかにするために動き始めていて、断層までの掘削を行い、断層を回収し、断層に残っている摩擦熱を測らなくてはいけないという結論に至ったのだ。
その会議には、米国の科学掘削船のオペレーターも、我々JAMSTEC地球深部探査センター(CDEX)も参加していた。先に米国のオペレーターが発言する。「残念ながら、我々の船では、その長さのパイプは重すぎて、掘削を行うことはできない。残念ながら、そこまでチャレンジングなオペレーションは我々には不可能だ」。当然ながら、会議参加者の視線は我々に集中した。
そして、2012年4月、「ちきゅう」は水深8000メートルに達する日本海溝の上、仙台の東方220キロの太平洋上にいた。
このように、簡単に(乱暴に?)言うと、科学掘削は研究者が提案し、オペレーターが(研究者とともに)プランニングして、実行する。
☆「ちきゅう」トリビア☆
この日本海溝での掘削航海(IODP第343次航海)で、「ちきゅう」は科学掘削における世界記録を更新した。最深掘削記録、つまり、海面から海底下の掘削到達地点までの長さだ。それまでの世界記録は、1978年に米国のグローマー・チャレンジャー号がマリアナ海溝チャレンジャー海淵で達成した7049.5メートル(水深7034メートル+海底下15.5メートル)。これに対して、「ちきゅう」は水深6899.5メートルの海底から850.5メートルまで掘削。海面からの深さは7740メートルとなり、世界記録の更新となった。
「「ちきゅう」 “日の丸”科学掘削船の大冒険」最新記事
バックナンバー一覧へ- 第9回 倉本真一 「ちきゅう」は未来を掘っている
- 第8回 高井研 ♪もしも〜「ちきゅう」が〜使えたなら♪
- 第7回 諸野祐樹 海底下の生命探し、何より根気が必要
- 第6回 山口飛鳥 「ちきゅう」乗船でひらけた研究者人生
- 第5回 木村学 南海トラフからのクリスマスプレゼントとお年玉
- 番外編 稲垣史生「海底下に世界最深の生命圏を発見」のここがスゴイ!
- 第4回 澤田郁郎 科学を支える“掘削の親分”
- 第3回 斎藤実篤 「断層ハンター」、世紀のミッションに挑む
- 第2回 江口”Nobu“暢久 「研究支援統括(EPM)」って何?~その2~
- 第1回 江口”Nobu“暢久 「研究支援統括(EPM)」って何?~その1~