ここで、簡単に卓球の苦手な僕の自己紹介をしよう。
 もともとは研究者になろうと、学部・修士は琉球大学海洋学科でプランクトンの化石を使った、地球の古い環境(主に気候変動)の復元を行い、博士課程の時は東京大学海洋研究所で、現在の海洋環境とそこに生息するプランクトンの関係と、その関係が海底下にどのように保存されて、過去のどんな地球環境を復元することができるのか、というような研究をやっていた。学位をとって1年目に指導教官に言われたのが、「江口、お前あんまり研究者には向いてないよな」まぁ、自分でもそうかもねぇ、と思ってなくもなかったわけで、そのあと言われた「マネージメントの方が向いてると思うよ」という言葉に、割と簡単に同意してしまった自分がいた。

 その後、80年代から米国主導で続いていた深海掘削計画(Ocean Drilling Program、ODP)から、2003年に始まった統合国際深海掘削計画(Integrated Ocean Drilling Program、IODP)への移行期をサイエンスコーディネーターとしてマネージした。IODPが開始されてからは、IODPの中央管理組織 (IODP-MI)に所属して、プログラム全体のマネージメントを行ってきたが、2007年にJAMSTEC地球深部探査センターに呼ばれて、「ちきゅう」のサイエンスの現場マネージメントをするようになったのだ。その後、国際的な海洋科学掘削は2013年から新しいフェーズに入り、現在は国際深海科学掘削計画(International Ocean Discovery Program、IODP)が続いており、ありがたいことに、僕の仕事もまだ続いている。

☆「ちきゅう」トリビア☆

新しいプログラムになったのに、相変わらずIODP。だが、いつの間にか「掘削」(drilling)という単語が消えているのには訳がある。ちょうど、新しいプログラムの名前を決める時期に、メキシコ湾の石油掘削現場で大きな事故があった。亡くなった方もいたし、漏れ出た原油が海岸に流れ着き、大きな環境問題に。このため、特に米国世論は「Drilling」という単語にアレルギーが出ている時期だった。しかし同時にIODPという略語はそのまま使いたい。その結果「D」に選ばれたのが「Discovery」だった。日本語では、国際海洋発見計画とはならなかったが……。

IODP 第343次航海の途中、EPMの交代で研究者たちより先に下船する朝、研究区画中の壁にNobuのポスターが! 研究チームがひそかに用意してくれた嬉しいイタズラだ。(提供:JAMSTEC)
IODP 第343次航海の途中、EPMの交代で研究者たちより先に下船する朝、研究区画中の壁にNobuのポスターが! 研究チームがひそかに用意してくれた嬉しいイタズラだ。(提供:JAMSTEC)
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 第1回では、EPMの三つの仕事の1番目と3番目を簡単に紹介してきた。二つ目の仕事「ちきゅう」はいかにして科学調査を行っていくのかという「科学掘削航海のプランニング」については、次回に紹介しよう。この仕事には、旅、会議、調整、そして黒子が含まれるのだ。(つづく)

江口 暢久(えぐち のぶひさ)

1995年琉球大学理学部大学院海洋学専攻終了。1999年に東京大学大学院理学系研究科を終了し博士号取得。その後、高知大学海洋コア研究センターで助手を務めたのち、2001~3年はJAMSTEC、2004~07年は統合国際深海掘削計画(IODP)の中央管理機関組織で、サイエンスコーディネーターとして活躍。2007年からはJAMSTEC地球深部探査センター(CDEX)で研究支援統括を務める。科学者や技術者など関係者からは親しみと尊敬をこめて“Nobu”と呼ばれている。「ちきゅう」のオペレーションを円滑に行い、実り多い成果を上げるために欠かせない存在だ。

地球深部探査船「ちきゅう」

2005年7月29日、建造完成。科学的調査や研究のために海底下7000メートルまで掘削することが可能。世界トップクラスの掘削能力を使って、地中深くからコアサンプルを採取し、地球の内部構造や巨大地震発生のメカニズム、生命誕生の謎などを解き明かそうとしている。2007年からは、日米が主導する統合国際深海掘削計画(IODP)の主力船として、南海トラフ地震発生帯や下北半島八戸沖の石炭層、東北地方太平洋沖地震の発生帯、沖縄熱水海底下の生命圏の掘削を実施してきた。究極の目標は、人類未踏のマントル到達だ。 全長:210メートル(新幹線約8両分)●幅:38メートル(フットサルコートの長さ)●船底からの高さ:130メートル(30階建てビル)●国際総トン数:56.752トン●最大乗船人員:200人●航海速力:12ノット(時速約22キロ)●航続距離:約14,800海里(27,410キロ)

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