第1回 江口”Nobu“暢久 「研究支援統括(EPM)」って何?~その1~

「ティャン、どうした? 浮かない顔をしてるけど? まぁ、オペレーション進まないから、すっきりしないよな?」

 ラボの廊下を歩いていると、カナダから乗船している中国系の若い研究者がしょぼくれていた。今回の乗船研究者の中の最年少、ものすごい頑張り屋さんで、シニアな研究者にも対等に議論を持ちかけるガッツをすごくかっていた。「ノブさん、負けちゃったの ぼく」「何??」「卓球大会の1回戦……」なるほど、そういうことか。

 東北地方太平洋沖地震が発生して約1年後に急きょ掘削調査を行った今回のオペレーションは、これまで誰もやったことのないほどチャレンジングなものであった。乗船研究者もそれなりの覚悟で乗っている。しかし、天候不順や機器トラブルが続き、なかなか思うように進まない時期だった。

「ちきゅう」には卓球台があり、航海中に卓球のトーナメントが開かれるのが恒例となっている。今回の航海でも前の日から1回戦が開かれていた。彼が中国系の面子をかけても、卓球は勝つのだ! と意気盛んだったのを思い出した。それが、1回戦で負けちゃったの? それはしょぼくれるのも仕方がないかもしれない。と、そこで良い案が頭に浮かんだ。「ティャン、まだ卓球トーナメントに出たい?」「うん、でも負けちゃったんだよ」

 ラボの廊下にはトーナメントの対戦表が大きな紙に書かれて貼ってある。もちろん彼の名前から伸びているラインにはバッテンが大きく書いてあった。まだ1回戦をやってない僕の名前ももちろんそこに書いてある。そこまで彼を連れて行き、「ティャン、明日からお前はノブになろう」最初は何を言われているのかわからなかったようだが、状況を理解した途端、それまでのしょぼくれ顏が笑顔に変わっていった。

 このあたりが、「(3)幼稚園の先生」の仕事である。
 ちなみに、彼はそのあと私の顔のマスクを作って、それをかぶってトーナメントに再び参戦し、結局、見事に優勝した。僕が卓球が苦手だということは、このまま内緒にしておこう。

 IODP 第343次航海(2012年4~5月)で、カナダからやって来た中国系の研究者ティェンがNobuのお面をかぶって、一度は敗退した卓球トーナメントに再挑戦中。(提供:JAMSTEC)
IODP 第343次航海(2012年4~5月)で、カナダからやって来た中国系の研究者ティェンがNobuのお面をかぶって、一度は敗退した卓球トーナメントに再挑戦中。(提供:JAMSTEC)
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☆「ちきゅう」トリビア☆

世界中の研究者が乗ってくる「ちきゅう」のオペレーション中の公用語は英語。もちろん、例えば、日本人同士、フランス人同士はそれぞれの言語で話すが、共通言語は英語。僕のことを日本人じゃないと勘違いして、ずっと英語で話しかけていた日本人のスタッフもいた。