地球のきょうだいでは?

 科学者たちがこうした研究を重ねてきたにもかかわらず、巨大衝突説がようやく広く受け入れられるようになったきっかけは、1984年にハワイで開かれた国際会議だった。現在、これが月の起源の一般的な定説となり、ぶつかってきた天体にはギリシャ神話の月の女神、セレーネの母にちなんだテイア、という名前までつけられた。

月の表側(左)と裏側(右)はこんなにも違う。一番目立つ違いは、裏側にはほとんど「海」がないことだ。この違いについてはさまざまな説があり、月ができた当時や誕生直後の環境条件をその原因に挙げる説もある。(NASA)
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 しかし、疑問がすべて解決したわけではない。たとえば、月がこれほど高いエネルギーを持つ衝突から生まれていたならばもっと減っているはずの揮発性の化学物質が、月の石にはわりあいと残っている理由がわからない。もう一つは、月の石には酸素同位体が比較的同じ割合で含まれていて、これは、月にある石がすべて、太陽系の同じ領域でできたことを示しているのだが、その理由もわからない。

 2005年に、プリンストン大学のエドワード・ベルブルーノとリチャード・ゴットIII世が、これらの矛盾を解決できそうな仮説を提案した。このモデルでは、地球軌道上にある五つのラグランジュ点、つまり地球の力と太陽の力が均衡している重力のいわゆる「スイートスポット」のうち、地球を中心とする前後60度の地点にテイアができたと説明している。ここでおそらく、テイアは地球の質量の10%ほどまで成長したときに軌道が不安定になり、地球めがけてゆっくりとにじり寄り、ついに衝突した。

 ベルブルーノとゴットの理論を使えば、月の石の酸素同位体が一定であることが説明できる。そのうえ、この衝突から生じたエネルギーは、太陽系のどこかからテイアがやってきて衝突したという仮説よりもはるかに少なくなるため、月の岩石に揮発性物質が蒸発せずに残っている点についても説明がつけられる。

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ジャイルズ・スパロウ

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで天文学を、インペリアル・カレッジ・ロンドンでサイエンス・コミュニケーションを学ぶ。作家やコンサルタント、寄稿者などさまざまな立場で、数多くのポピュラー・サイエンス関連書籍に関わる。

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