生命は宇宙から?

 地球生命の起源がどんな環境であったにせよ、繁殖と自然淘汰、というメカニズムがはたらき出すまでには、途方もなく長い複雑化のプロセスを重ねなければならなかったはずだ。ユーリー・ミラー実験で再現したように、混沌とした巨大の水溜りの中で単純な化学物質から、どんな下等動物にも存在する高度な組織、たんぱく質やDNAなどが作られたり、分解される循環が起こらなくてはならない。だから、最初の単細胞の生命体がひょっこり誕生するまで数十億年はかかったはずだ、と考える科学者もいた。ところが化石を見ると、地表環境が整うと同時に最初の生命が誕生したことが示されていたのである。

米国ワイオミング州のイエローストーン国立公園にある間欠泉周辺。見るからに生存に適さないこのような環境にも、極限環境微生物が数種類繁殖していることが科学調査からわかった。(fotokik_dot_com/Shutterstock)
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 この明らかな矛盾から、なぜこれほどまでに早い時期に最初の生命が誕生できたのかを説明する数々の理論が生まれた。たまたま運が良かったとする説もあれば、生命の構成要素をいとも簡単に生み出す試行錯誤のプロセスができ上がるまでのいきさつを述べる説もあった。ごく一般的な進化論的アプローチにあくまでもこだわる科学者たちもいる。原初の生命体の急速な進化を助けられるような、ダーウィンの自然淘汰説を超えるほどの原理があるのにまだ発見されていないのではないか、というのが彼らの主張だ。

 さらには、宇宙から「スターター(初心者用)キット」一式が届いて地球上の生命が活動し始めた、という説を信じる者たちもいた。パンスペルミア説と呼ばれるこの理論では、生命の基本構成要素、つまり、複雑な有機化合物や、ことによっては細胞そのものが宇宙に広く散在していて、それが彗星や隕石の内部で超凍結状態のまま宇宙から運ばれているのだと説いている。こうした生命の基本構成要素が幸運にも地表に着陸して、その土地が幸運にも生命維持可能な環境だと判断できたら、そこで生命活動を始められるのだという。

 パンスペルミア説が最初に登場したのは19世紀のころにまでさかのぼるが、これが科学的理論として扱われるようになったのは1970年代になってからだ。英国の天文学者フレッド・ホイルとスリランカ出身のホイルの研究仲間チャンドラ・ヴィクラマシンらがこの説を最初に提唱した。化石になった生命体がそのまま隕石の内部に潜んでいるという主張はたいがい相手にされなかったが、新しい可能性を示唆する一連の証拠がこのあとにいくつも明らかになった。この説はまだ裏づけられてはいないが、まったくあり得ないこととは言い切れない。

 現在では、巨大な隕石が衝突すると必ず、惑星の表面から飛び出した物質の塊が惑星間の宇宙空間に放出されることは、よく知られている。さらには、驚くほど長時間宇宙空間にさらされ、場合によっては岩石層などに守られなくても生き延びるさまざまな種類の生物がいることもわかっている。彗星の中には、星間空間を長時間旅して、太陽系のファミリーのメンバーである惑星をすり抜けているものもあることも、その軌道からわかっている。最も見過ごせない出来事は、遠方の星雲に存在することが確認された有機化合物のかけらが隕石の中から発見されたことだ。NASAのゴッダード宇宙飛行センターのマイケル・キャラハンらは2011年に、炭素質隕石の試料の中からDNAの構成要素をいくつも発見している。

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ジャイルズ・スパロウ

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで天文学を、インペリアル・カレッジ・ロンドンでサイエンス・コミュニケーションを学ぶ。作家やコンサルタント、寄稿者などさまざまな立場で、数多くのポピュラー・サイエンス関連書籍に関わる。

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