第2回 天の川銀河のブラックホール

眠れる巨人

 では、天の川銀河の中心部分が、活動銀河のように輝いていないのはなぜだろう。最も矛盾が少ない説明はこうだ。中心部分が輝くのは、どんな銀河でもその成長段階の早い時期に通るステージで、天の川銀河はその段階はすでに過ぎていた。ある時期、近いところにいた恒星やガスを手当たり次第に貪っていたモンスターが、周辺の宇宙空間の領域をすっかり食い尽くしてしまい、今では近隣にいる恒星の恒星風に含まれる動きの遅い粒子だけを取り込んでいるのだ。2009年にハーバード大学とマサチューセッツ工科大学の科学者たちが共同で行った研究では、ブラックホールはこれまで考えられていたほどには吸引力がないことが示された。彼らが考えたのは、動きの速い高温の粒子がブラックホールを取り囲んでバリアを作っているせいで、恒星風がほとんど閉め出されているモデルだった。

天の川銀河の中央部分の地図。1995年から2008年までの間に観測したいくつかの明るい星の動きがプロットされている。軌跡を見ると、姿は見えないが非常に質量の大きな天体がそこにあり、星たちはその周囲を回っていることがわかる。背景の画は、1回の観測で見える恒星の位置を示している。(A.Ghez, Keck/UCLA Galactic Center Group)
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 一方で、ブラックホールが時折、爆発を起こしていることを裏づける証拠もあった。銀河の中心部分の上に反物質の「噴水」があることを、1997年にコンプトン・ガンマ線観測衛星が発見した。この現象は最初、ブラックホールの過去の活動が原因で起こったのだと考えられていたが、現在では激しく活動する近隣の恒星の残骸によって起きたとする説が有力だ。2007年、NASAのチャンドラX線衛星を使った科学者たちは、いて座A*の近くにものすごい速さで運動しながらエックス線を放出している天体を見つけた。このエックス線発生源は、50年ほど前に放出されたエックス線の短いフレアの反射、つまり光エコーだと考えられている。そのときにブラックホールが水星とだいたい同じくらいの質量があるガス雲をのみ込んだのだ。この眠れる巨人が次にいつ目覚めるのか。それは誰にもわからない。

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ジャイルズ・スパロウ

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで天文学を、インペリアル・カレッジ・ロンドンでサイエンス・コミュニケーションを学ぶ。作家やコンサルタント、寄稿者などさまざまな立場で、数多くのポピュラー・サイエンス関連書籍に関わる。