The Essence of Work 三井昌志さんのステートメント

 現地でバイクを借りて、行き先を決めず、地図さえ持たずに、町から町へと移動する。そんな気まぐれな旅を続けてきた。準備は最小限にして、あとは偶然に身を任せ、その偶然性がもたらす出会いを心から楽しんできた。訪れたのはアジアを中心に39ヶ国。インドだけでも7周し、10万キロ以上の道のりを走り続けてきた。

 そんな旅の中で、僕がもっとも強く惹かれたのが、働く人々の姿だった。農家、漁師、鍛冶屋、レンガ工場の労働者。ほとんどが特別な技術を必要とする伝統工芸ではなく、誰からも注目されていない単純作業や肉体労働だったが、その姿は美しかった。汗を流して働く人々には、人間が持つ根源的な生命力が宿っていた。人にはそれぞれ違った役割があり、それをできる限り誠実にやり続けるのが、働くことの本質なのだと、働く背中は語っていた。

 もともと血縁や村落共同体の力が強いインドでは、多くの人が「親の職業を子が受け継ぐ」という伝統にしたがって暮らしてきた。しかし、急速な経済発展とグローバル化の進展にともなって、こうした伝統のあり方も大きく変化している。かつて必要とされていた仕事が不要なものになり、まったく新しい仕事が次々と生み出されているのだ。実際、2016年に僕が撮影した染色工場のひとつは、翌年に再訪したときには操業をやめ、従業員は全員解雇されて、誰もいない廃墟になっていた。

 何世代にも渡って受け継がれてきた仕事が、ひとつまたひとつとその役目を終えていく。その流れは誰にも止めることができないし、今後もさらに加速していくだろう。その仕事が10年後も今と同じように残っている保証はない。だからこそ、僕は働く人々を撮っている。

 そう遠くない将来、こうした仕事があったことさえ忘れ去られてしまう前に、人々が流した汗のきらめきや、真剣な眼差しや、無駄のない肉体美を、写真に記録し、世界に伝えたい。「平凡なものとして見過ごされている仕事がこの世界を根底から支えている」という事実を、多くの人に知ってもらいたい。それが写真家として僕が果たすべき役割だと考えている。