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2つの時点の私。左は手術を受ける前、2014年に撮影した私自身。右は顔の女性化手術を受けた後、2018年に撮ったもの。これらを両端として、顔つきと体を変容させる旅があった。自分がそれまで何を経験し、どこへ向かおうとしているのか理解する手段として芸術を用いることは、気分をやわらげ、洞察を与えてくれた。(PHOTO ILLUSTRATION BY ALLISON LIPPY)

自身のジェンダー移行を撮った写真家とその記録「これがありのままの私」

2022.06.30

 自分がトランスジェンダーだと気付くまでに、27年かかった。肉体的に移行する決心をするには1カ月か2カ月かかった。自分のため、またそれを必要とする人のために、私(筆者のAllison Lippy氏)の変容を記録すべきだと理解するのにさほど時間はかからなかった。

 最初から話そう。

27歳のときに撮影した左の写真は、私のジェンダー移行の第一日目である2015年4月7日を記念するもの。中央は2015年5月18日に撮った。私と過去の私を切り離した記録だ。2015年7月25日撮影の右の写真は、ホルモンとホルモン阻害薬の投与によって身体的変化が起こることをリサーチによって知ったことを反映している。ホルモン投与の結果は人によって異なることから、それが自分の体にはどのような影響を及ぼすかわからず、未知のことに対する不安を抱えていた。(PHOTOGRAPH BY ALLISON LIPPY)
27歳のときに撮影した左の写真は、私のジェンダー移行の第一日目である2015年4月7日を記念するもの。中央は2015年5月18日に撮った。私と過去の私を切り離した記録だ。2015年7月25日撮影の右の写真は、ホルモンとホルモン阻害薬の投与によって身体的変化が起こることをリサーチによって知ったことを反映している。ホルモン投与の結果は人によって異なることから、それが自分の体にはどのような影響を及ぼすかわからず、未知のことに対する不安を抱えていた。(PHOTOGRAPH BY ALLISON LIPPY)

 1990年代と2000年代初頭に、米国メリーランド州のボルチモアで育った私は、人が出生時に決定された性以外になれることを知らなかった。当時は、自分が何者であるかを理解する糸口になるような、資料もロールモデルもなかった。

 ただ自分の性に関するうっすらとした違和感、何かが違うという感覚が、漠然とあった。20代になるまで、そのような気持ちについて人に話したことはなく、深く考える機会もなかった。21歳になったとき、たまたまYouTubeでトランスジェンダーの女性たちが自身のジェンダー移行について話している動画を見た。

 それから時々、その動画が更新されていないかチェックするようになった。私はトランスジェンダーのアイデンティティーに関してリサーチしているだけだと自分に言い聞かせた。まだ、自分自身の真実に向き合う心の準備はなかった。

2015年8月22日までには、長い間に自分がどのように変化するか記録し、見てみたいという考えにワクワクし始めていた。(PHOTOGRAPH BY ALLISON LIPPY)
2015年8月22日までには、長い間に自分がどのように変化するか記録し、見てみたいという考えにワクワクし始めていた。(PHOTOGRAPH BY ALLISON LIPPY)

 2011年に、ニューヨーク市に転居した。写真業界での仕事は心身共に忙しく、心の中を見つめる余裕はなかった。2015年、セラピストのオフィスでソファに座っているとき、セラピストが何気なく、あるセレブがトランスジェンダーであるとカミングアウトしたことを話題にした。そのときにした会話の内容は忘れてしまった。彼女の話に特に注意を払った記憶もない。ただ、「へえ、それは興味深い」と思ったことを覚えている。

 そのふとしたうわさ話が発端となり、潜在意識でくすぶっていたことから目をそらせなくなった。家で一人で物思いにふけりながら、自分のアイデンティティーについて考えた。

 何度も自問した。「私はトランスジェンダーなのか? 女性なのか?」と。おそらく違うだろうと自分に言い聞かせた。そして「もしかしたら?」と思った。その間の行ったり来たりだった。しかし数日が過ぎ、数週間が過ぎる頃には答えは明らかだった。「そうだ、それが私だ」

 とうとう、私は自分が何者かを受け入れる必要があると悟った。

ギャラリー:「これがありのままの私」自身のジェンダー移行を撮った写真家 写真10点(写真クリックでギャラリーページへ)
2016年1月2日:物理的に見えるものと自分の期待の不一致の重さを実感する日が続いた。(PHOTOGRAPH BY ALLISON LIPPY)
2016年1月2日:物理的に見えるものと自分の期待の不一致の重さを実感する日が続いた。(PHOTOGRAPH BY ALLISON LIPPY)
2016年3月26日:外科的介入なしにホルモン投与するだけで、人体に有意な効果が現れることもある。時の経過につれて、肌が柔らかくなり始め、乳房組織が成長を始め、身体的な変化は見た目にもより分かりやすいものとなった。(PHOTOGRAPH BY ALLISON LIPPY)
2016年3月26日:外科的介入なしにホルモン投与するだけで、人体に有意な効果が現れることもある。時の経過につれて、肌が柔らかくなり始め、乳房組織が成長を始め、身体的な変化は見た目にもより分かりやすいものとなった。(PHOTOGRAPH BY ALLISON LIPPY)

 それまで感じていたすべての戸惑いのつじつまが合った。初めてパズルのピースがすべてぴたりとはまった。あらゆることが収まるべき所に収まったように感じた。自信を持って、興奮を覚えながら、私は失われた時間を埋め合わせるための行動に急いで取りかかった。

次ページ:自分の物語を語る

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