Photo Stories 撮影ストーリー

2つの時点の私。左は手術を受ける前、2014年に撮影した私自身。右は顔の女性化手術を受けた後、2018年に撮ったもの。これらを両端として、顔つきと体を変容させる旅があった。自分がそれまで何を経験し、どこへ向かおうとしているのか理解する手段として芸術を用いることは、気分をやわらげ、洞察を与えてくれた。(PHOTO ILLUSTRATION BY ALLISON LIPPY)
自身のジェンダー移行を撮った写真家とその記録「これがありのままの私」
2022.06.30
自分がトランスジェンダーだと気付くまでに、27年かかった。肉体的に移行する決心をするには1カ月か2カ月かかった。自分のため、またそれを必要とする人のために、私(筆者のAllison Lippy氏)の変容を記録すべきだと理解するのにさほど時間はかからなかった。
最初から話そう。
1990年代と2000年代初頭に、米国メリーランド州のボルチモアで育った私は、人が出生時に決定された性以外になれることを知らなかった。当時は、自分が何者であるかを理解する糸口になるような、資料もロールモデルもなかった。
ただ自分の性に関するうっすらとした違和感、何かが違うという感覚が、漠然とあった。20代になるまで、そのような気持ちについて人に話したことはなく、深く考える機会もなかった。21歳になったとき、たまたまYouTubeでトランスジェンダーの女性たちが自身のジェンダー移行について話している動画を見た。
それから時々、その動画が更新されていないかチェックするようになった。私はトランスジェンダーのアイデンティティーに関してリサーチしているだけだと自分に言い聞かせた。まだ、自分自身の真実に向き合う心の準備はなかった。
2011年に、ニューヨーク市に転居した。写真業界での仕事は心身共に忙しく、心の中を見つめる余裕はなかった。2015年、セラピストのオフィスでソファに座っているとき、セラピストが何気なく、あるセレブがトランスジェンダーであるとカミングアウトしたことを話題にした。そのときにした会話の内容は忘れてしまった。彼女の話に特に注意を払った記憶もない。ただ、「へえ、それは興味深い」と思ったことを覚えている。
そのふとしたうわさ話が発端となり、潜在意識でくすぶっていたことから目をそらせなくなった。家で一人で物思いにふけりながら、自分のアイデンティティーについて考えた。
何度も自問した。「私はトランスジェンダーなのか? 女性なのか?」と。おそらく違うだろうと自分に言い聞かせた。そして「もしかしたら?」と思った。その間の行ったり来たりだった。しかし数日が過ぎ、数週間が過ぎる頃には答えは明らかだった。「そうだ、それが私だ」
とうとう、私は自分が何者かを受け入れる必要があると悟った。
それまで感じていたすべての戸惑いのつじつまが合った。初めてパズルのピースがすべてぴたりとはまった。あらゆることが収まるべき所に収まったように感じた。自信を持って、興奮を覚えながら、私は失われた時間を埋め合わせるための行動に急いで取りかかった。
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