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スーダンのメロエ遺跡に立つ急勾配のピラミッド。ラクダに乗って調査する人物のシルエットが見える。(Photograph by Robbie Shone/National Geographic Image Collection)
ギザのピラミッドやテーベの神殿は、かつてのアフリカにおける古代都市の繁栄を雄弁に物語る。一方で、繫栄していたにもかかわらず、歴史の表舞台から消えてしまった都市もあった。この記事では現在のエジプト、スーダン、マリにある4つの「失われた古代都市」を、ナショナル ジオグラフィック別冊『古代の都市 最新考古学で甦る社会』から紹介する。いずれも現代の考古学者が再発見するまで、長く歴史に埋もれていた。
栄華を極めた港トロニス=ヘラクレイオン(エジプト)
古代エジプトの都市トロニス=ヘラクレイオンは、近年発見された「失われた都市」の代表格だ。エジプト人からは「トロニス」、ギリシャ人からは「ヘラクレイオン」と呼ばれたこの港町は、交易と文化の一大拠点として栄え、その後1000年以上にわたり姿を消していた。
2000年、考古学者のフランク・ゴディオが、この都市が消えた理由を突きとめる。8世紀の声を聞く頃、この都市はすでに地中海に沈んでしまっていたのである。アブキール湾の海岸線から6キロほど沖合の、水深10メートル付近を探索していたゴディオの調査隊は、アメン神を祭った神殿と都市水路らしきものの跡を発見する。
70隻を超える沈没船と数百個もの錨が沈んでいるのも確認され、往時のトロニス=ヘラクレイオンが繁華な港町であったことが明らかになった。海中の遺跡からはスフィンクスや統治者の像、指輪、硬貨に加え、ナイル川の氾濫つまり豊穣のシンボルであるエジプトの神ハピをかたどった赤い花崗岩の巨像が発見されている。
かつてそれほど賑わった港湾都市が波濤の下に消えたのはなぜだろうか。大津波を伴う地震と軟らかい土壌の液状化が相まって、トロニス=ヘラクレイオンは自重によって沈んだというのが、調査に携わる人々の見解である。
学問と文化の交差点アレクサンドリア(エジプト)
アレクサンドロス大王が遠征中に築き、その名を冠した都市は数多いが、ナイル・デルタの縁に位置する地中海の港市アレクサンドリアほど著名なところはない。紀元前332年に建設されたこの都市は、地中海貿易への便も良く、すぐに学問や文化の交差点となり、ギリシャ人、エジプト人、ユダヤ人の学者たちが市内各所の学堂で交流した。(参考記事:「世界の七不思議、千年働いた超巨大「アレクサンドリアの大灯台」」)
ムセイオン(王立学術研究所)に隣接する大図書館は、アリストテレスによれば、「世界中のすべての書」を集めるために建てられたのだという(のちにローマとの戦役で大半が焼失)。エウクレイデス、アルキメデス、プトレマイオスなど古代世界屈指の知識人がアレクサンドリアに居を定めた。地理学者エラトステネスが最初に地球のサイズを計測したのも、この地においてだった。アレクサンドリアは7世紀まで栄えたが、ペルシャ、やがてアラブの征服者たちに滅ぼされた。
ただ、古代都市の多くが砂に埋もれて消滅したのに対し、アレクサンドリアの場合は、その上に現代の都市が築かれ、今や人口500万を超える大都会となっている。旧市街の大半は水分を多く含む地面に沈み込み、紀元365年の大津波によって壊滅的な被害を受けた。市内のめぼしい遺跡のいくつかは、もはや正確な位置がわからなくなっており、その中にはこの都市の建設者、すなわちアレクサンドロス大王の墓も含まれる。(参考記事:「アレクサンドロス大王の墓、21年がかりで探求」)
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