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二つの船体をつないだ双胴カヌー「ホクレア号」は、太陽と星と波と風に頼った伝統的な航海術を復活させるため、ポリネシアの航海カヌーを模して設計された。 (COURTESY OF THE POLYNESIAN VOYAGING SOCIETY)

ホクレア号初の女性船長、星と風を頼りにタヒチへ4800キロを航海

2022.05.24

 双胴カヌー「ホクレア号」は、ハワイ島を出航してまだそう遠くないところにいた。電話口の音から、強い風が吹きつけているのがわかる。

 これから始まる長い航海の進路を決めるため、航海士のレフア・カマル氏は全神経を集中させている。「まずは、島からどのくらい離れたかを見積もります。それから南東に向かうコースを設定します」。まもなく電話は切れ、かけ直すことはできなくなる。ホクレア号と10人の乗組員はタヒチに向かっている。約4800キロ、20日間の航海だ。

【動画】ポリネシアの伝統的な航海術を復活させたホクレア号。動画は2017年のタヒチからハワイへの航海の際に撮影された。(VIDEO COURTESY POLYNESIAN VOYAGING SOCIETY)

 ポリネシア航海協会(PVS)は、現代の航海技術の助けを借りずに外洋を航海している。彼らの簡素な双胴カヌーは、かつてポリネシアの先住民が太平洋を横断するのに使っていた伝統的な航海カヌーを再現したもので、すでに大洋の横断や地球一周を成功させている。太陽と星が彼らのコンパスで、波と風が彼らの地図だ。PVSの航海責任者であるカマル氏は、「すべてを頭の中で行います」と言う。「風を読み、航行速度を確認し、帆を調節します」

 カマル氏はホクレア号初の女性船長兼航海士だ。ポリネシア航法は伝統的に祖父から男児の孫へと受け継がれてきたが、彼女は女性がポリネシア航法を受け継いでもなんの問題もないことを、ハワイの火の女神「ペレ」の伝説を引き合いに出して説明する。ペレはタヒチから追放された後、海を渡ってハワイにやって来て、2つの島を結ぶ「海の道」を開いたとされている。同じルートを航海したことがあるカマル氏は、「ペレは女神ですが、タヒチからハワイへの航路を初めて開拓した女性でもあるのです」と言う。

ホクレア号初の女性船長兼航海士であるレフア・カマル氏は、2017年に、ポリネシア航海協会(PVS)のメンバーとともに、ガラパゴス諸島からラパ・ヌイ(イースター島)まで航海した。
ホクレア号初の女性船長兼航海士であるレフア・カマル氏は、2017年に、ポリネシア航海協会(PVS)のメンバーとともに、ガラパゴス諸島からラパ・ヌイ(イースター島)まで航海した。

 ナショナル ジオグラフィックのエマージング・エクスプローラーであるカマル氏は、2018年に、女性の船長兼航海士として初めて現代の航海技術の助けを借りずにハワイからカリフォルニアまで4500キロの長距離航海を成功させたことで知られる。彼女自身は、自分がポリネシア航法を身につけようと思い立ったのは偶然だったと思うこともあるが、「ここの人たちには、偶然などではない、すべてが必然だったのだと言われています」と語る。

2017年、タヒチからハワイに向けて航海中のホクレア号。1976年の初航海以来、ホクレア号は太平洋を何度も横断している。(COURTESY OF THE POLYNESIAN VOYAGING SOCIETY)
2017年、タヒチからハワイに向けて航海中のホクレア号。1976年の初航海以来、ホクレア号は太平洋を何度も横断している。(COURTESY OF THE POLYNESIAN VOYAGING SOCIETY)

伝統的航海術の復活

 現在、学者たちの間では、太平洋の船乗りたちは何千年も前から自然界の観察に基づく航海術を発達させ、その技術を世代から世代へ受け継ぐことで太平洋の島々を開拓してきたと考えられている。しかし、ヨーロッパ人による植民地支配の時代には、先住民たちは島々に偶然漂着してそこに住むようになったという説が優勢だった。ヨーロッパ人は口承を無視し、「口承の文化をもち、その系譜に連なるコミュニティー」を否定したとカマル氏は言う。やがて西洋の航海技術が入ってくると、ハワイを含む太平洋の多くの地域から先祖伝来の航法が失われていった。

【動画】ハワイからタヒチへの航海の初日、帆を広げる作業をする乗組員たち。(VIDEO COURTESY POLYNESIAN VOYAGING SOCIETY)

 1973年、人類学者のベン・フィニー、芸術家で歴史家のハーブ・カワイヌイ・カーネ、船乗りのチャールズ・“トミー”・ホームズの3人は、ポリネシア航法に関する残されたわずかな知識を取り戻し、先住民が島々に漂着したのではなく意図的にそこを訪れたとする仮説を検証するために、ポリネシア航海協会(PVS)を設立した。

 3人はミクロネシアで伝統的航海術を持つ人物を探し、サタワル島でマウ・ピアイルック氏に出会った。氏は祖父から伝統的な航法を学んだ最後の達人の1人で、ミクロネシアの伝統にのっとり、技術を習得した者が受けるポゥという神聖な儀式も済ませていた。彼は、その知識をハワイだけでなくポリネシアの人々に快く分け与えた。

ギャラリー:ホクレア号初の女性船長、星と風を頼りに4800キロ 写真と絵10点(写真クリックでギャラリーページへ)
2014年〜2017年のインドネシア、バリ島からモーリシャスへのホクレア号の航海で、舵を操る乗組員。(COURTESY OF THE POLYNESIAN VOYAGING SOCIETY)
2014年〜2017年のインドネシア、バリ島からモーリシャスへのホクレア号の航海で、舵を操る乗組員。(COURTESY OF THE POLYNESIAN VOYAGING SOCIETY)
モーリシャスから南アフリカへの航海で、協力して船を進める乗組員たち。 (COURTESY OF THE POLYNESIAN VOYAGING SOCIETY)
モーリシャスから南アフリカへの航海で、協力して船を進める乗組員たち。 (COURTESY OF THE POLYNESIAN VOYAGING SOCIETY)

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