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スイス、リオム近郊のコースを滑降する人々。グラウビュンデン州の町では、冬になるとスキーとそり滑りの両方が楽しめる。(PHOTOGRAPH BY MARKUS GEBAUER, GETTY IMAGES)
本格的なそりで滑降したことのある人なら、鉄製のランナー(滑走部)が雪の上を疾走する独特な音に魅了されたことがあるかもしれない。スイス東部に位置するそりの楽園グラウビュンデン州では、この音が冬の風物詩だ。
スイスで大人気のこのスポーツを体験するため、2022年1月、わたし(筆者のTerry Ward氏)はグラウビュンデン州に向かった。スイスの山々と麓の街には150カ所以上のそり用コースがあり、その総距離は620キロにもなる。
そりに必要なスキルはスキーほど高度ではなく、小さな子供でも楽しむことができる。腰を下ろし、そりを押し出して、足を使ってブレーキをかける。ただし急勾配のコースでは、相当の度胸が必要となる。
スキーと同じように、そりにも独特の文化と親しみやすさがある。「そりの喜びは家族や友人たちと一緒に自然を楽しむことにあります」と、歴史家のシモン・エンゲル氏は言う。「人々は丘の上で出会い、交流するのです」
スイスのそり滑りの伝統とスリルの味わい方を紹介していこう。(参考記事:「危険すぎ? 退屈? 冬季五輪の「幻の競技」3選」)
スイスの冬の風物詩
記録に残っている世界最初のそりは、4000年前の古代エジプトに遡る。エジプトの労働者は、砂の上でそりを引いて、ピラミッドを建造するための石を運んだ。
スイスでは何世紀にもわたり、農民たちが木材を運んだり、家畜に餌をやったりするためにそりを使っていた。19世紀末、サンモリッツ周辺に英国人旅行者がやってきたことをきっかけに、そりは斜面を滑って遊ぶ乗り物となった。それ以降、そり遊びはアルプスやジュラ山脈の平野部から、チューリッヒのような都市部にまでスイス各地へと広がった。
旅行者がスイス国内のそり滑りコースを探す場合は「SwitzerlandMobility」を活用するとよい。このサイトには、ハイキング、クロスカントリー、そり滑りなどのアクティビティに適した、車の通らない全国のコースが登録されている。コースは難易度によってランク分けされており、夜間にライトアップされるコースも38カ所ある。
スイス各地にあるコースのスタート地点へは、徒歩やリフト、ゴンドラ、ケーブルカーなどで行くことになる。わたしは、サクランボ色をした、世界でここにしかない「そり滑り列車」に乗って、グラウビュンデン州の小さな村ベルギューンから、それよりもさらに小さな村プレーダに向かった。プレーダは、世界でもとりわけ景色が美しく刺激的なそり滑りコースのスタート地点になっている。
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