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サン・ニコラス広場を訪れる住民や観光客と、日没を迎えるアルハンブラ宮殿。(PHOTOGRAPH BY BEN ROBERTS)
スペイン南部のグラナダは、13世紀から15世紀のイスラム王朝、ナスル朝の都があった街だ。丘の上に建つ世界遺産アルハンブラ宮殿は、当時のスルタン(王)たちが要塞として造ったもの。この宮殿は中世の建築技術を駆使した最高傑作の一つであるだけでなく、文学の傑作でもある。詩や祝福、祈りの言葉が刻まれた建物は、まるで語りかけてくるようだ。
宮殿の中核であるコマレス宮の池のまわりには「永遠の至福、絶え間ない恍惚……」という一節が残され、スルタンの玉座の上には「言葉を慎めば、心安らかに行けるだろう」とある。8000個以上の木材で装飾された天井ドームは、イスラムの宇宙観である7つの天を象徴している。
グラナダの街の魅力は、アルハンブラ宮殿のように歴史豊かな雰囲気がある一方で、モダンな文化も息づいていること。音楽で言えば、伝統的なフラメンコの歌と踊りだけでなく、ヨーロッパのトラップミュージック(ヒップホップから派生した音楽)の中心地でもある。食で言えば、昔ながらのタパスが味わえるバルと、現代風の多国籍レストランが同じ通りに並んでいる。
グラナダの歴史を感じる
グラナダが栄え始めたのは11世紀。当時はイスラム教徒であるムーア人たちの要塞だったが、1492年に陥落し、アラゴン王フェルナンド2世とその妻、イサベル1世がカトリックに基づいて統治した。それからの時代、イスラム教徒やユダヤ人は、アルハンブラの北にある丘陵、アルバイシンに追いやられることになった。(参考記事:「シェイクスピア作品にも登場、「ムーア人」とは?」)
この中世イスラム地区では、ジグザグになった狭い小路が斜面に貼りつき、迷路のように入り組んだ白い家々が今も残されている。路地や階段に覆い被さるように建っているカフェやバルは、世界の果てにやってきたかのような魅力を感じさせる。アルバイシンから眺めるアルハンブラ宮殿も格別だ。
その後のカトリックの統治者たちは、アラブ式浴場ハンマームを罪と見なして破壊してきたが、11世紀のハンマーム跡地「エル・バニュエロ」はそれを免れた。現在は小さな博物館となっており、長い時の流れを感じることができる。
グラナダ陥落に成功し、クリストファー・コロンブスを新世界に送り出したフェルナンド2世とイサベル1世は、ともにサンタ・マリア・デ・ラ・エンカルナシオン大聖堂の王室礼拝堂に埋葬されている。この大聖堂は、二人の統治下で建造されたカトリックの聖地の一つだ。
この古都で出会える歴史上の人物はほかにもいる。その一人が、詩人フェデリコ・ガルシア・ロルカだ。グラナダに生まれ、スペイン内戦で銃弾にたおれたたロルカは、今もこの街で慕われている。彼の家族の夏の別荘だった「ウエルタ・デ・サン・ビセンテ」を巡るガイド付きツアーでは、ロルカの人生や作品について学ぶことができる。この家の外には、もともと果樹園だった公園があり、彼の作品を読むにはまたとない場所だ。
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