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ベアトゥスによる「ヨハネの黙示録注解」の写本の一つ「シロス写本」の中でもとりわけ色鮮やかな挿絵。黙示録12章の、天で起こった大天使ミカエルと赤い竜の戦いの場面を描いている。(BRITISH LIBRARY, LONDON)

世界の終わりを記した「ヨハネの黙示録注解」、中世スペインの不安を反映 画像と写真20点

2022.01.24
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 ベアトゥスが生まれた730年頃、イスラムの軍隊は容赦なく北へ向かって進軍し、ピレネー山脈を越えてフランスへ入っていた。750年、ベアトゥスが20歳の頃、中東ではイスラム王朝であるウマイヤ朝が、アッバース朝に倒された。新たな支配者から逃れたウマイヤ朝の後継者アブド・アッラフマーンは、イベリア半島へやって来ると、コルドバを首都として王朝を再興した。後にこのコルドバは、ヨーロッパでも有数の規模と文化を持つ都市に発展する。アブド・アッラフマーンの到来により、スペインのイスラム教徒たちは権力を統一させ、キリスト教のアストゥリアス王国とカンタブリア公国は、長期戦を覚悟しなければならなくなった。

 ベアトゥスの注解書は、イスラム王朝のコルドバが台頭する間、スペインのキリスト教社会で起こった内紛を反映していた。正統派の強い思想を持っていたベアトゥスは、自身の著作物を通して、当時イスラム教に支配されていたトレドの大司教エリバントゥスの教えに異議を唱えた。エリバントゥスは、イエスが神の養子にされたという「養子的キリスト論」を支持していたのだ。

上部が渦巻状になった杖を手にする聖ヨハネのイラスト。(BRITISH LIBRARY, LONDON)
上部が渦巻状になった杖を手にする聖ヨハネのイラスト。(BRITISH LIBRARY, LONDON)
天使と聖ヨハネ。「シロス写本」より。(BRITISH LIBRARY, LONDON)
天使と聖ヨハネ。「シロス写本」より。(BRITISH LIBRARY, LONDON)

 対立する考え方は、キリスト教徒が結束するうえで大きな脅威となりうる。ベアトゥスは、これをイスラム教徒の侵略と同じように危険な考え方であると言及し、ヨハネの黙示録に描かれているように世の終わりを引き起こす異端に例えていたようだった。また、この世を終末へと導く破滅的な出来事は、西暦800年頃に始まると予測した。

シロス写本

 黙示録注解書は12巻から成り、元の聖書の文がラテン語で書かれ、その後解説が続く。また、ベアトゥスの前の時代の学者たちによる解釈も付け加えられた。

 ベアトゥスの死後、注解書は修道会で広く読まれるようになり、10~13世紀には、「ベアトゥス写本」として知られる鮮やかな色彩の挿絵入り写本も作成された。そのうち27冊は、現存している。(参考記事:「中世の彩飾写本で女性が活躍か、歯石に貴重な顔料」

黙示録9章。天使がラッパを吹くと、星が天から落ちてくる。星が底なしの淵に通じる穴を開くと、いなごの群れが地上へ出てくる。この絵で、星は人間の姿をしている。現存する27冊のベアトゥス写本には、こうした挿絵が描かれている。(BRITISH LIBRARY, LONDON)
黙示録9章。天使がラッパを吹くと、星が天から落ちてくる。星が底なしの淵に通じる穴を開くと、いなごの群れが地上へ出てくる。この絵で、星は人間の姿をしている。現存する27冊のベアトゥス写本には、こうした挿絵が描かれている。(BRITISH LIBRARY, LONDON)

 ほとんどの写本はモサラベ様式で、スペイン北部で作成された。アラブとイスラム芸術の影響を受けたモサラベ様式は、豊かな色彩と幾何学模様が特徴的だ。なかでも、11世紀にスペイン北部のブルゴス近郊のサント・ドミンゴ・デ・シロス修道院で作成された見事な写本と挿絵は、「シロス写本」として知られている。ドミニコとムニオという修道士が文と一部の挿絵を描き始めたが、1091年4月18日に作業は中断された。その後3人目の修道士ペトリュスがその仕事を引き継ぎ、1109年に息をのむような豪華な挿絵を完成させた。(参考記事:「謎のボイニッチ手稿にAI、解読方法が判明?」

ギャラリー:中世スペインの不安を反映した「ヨハネの黙示録注解」 画像と写真20点(写真クリックでギャラリーページへ)
ギャラリー:中世スペインの不安を反映した「ヨハネの黙示録注解」 画像と写真20点(写真クリックでギャラリーページへ)
スペイン北部ブルゴス近郊にあるサント・ドミンゴ・デ・シロス修道院の回廊。柱のレリーフには、キリストの受難の場面が描かれている。(LEIVA/FOTOTECA 9X12)

「シロス写本」は、上質な羊皮紙に、金と銀のインクが使われており、高級品として扱われた。1800年代初期に、ナポレオン・ボナパルトの兄で、1808~1813年までスペイン国王だったジョゼフ・ボナパルトの手に渡り、その後1840年に大英図書館へ売却された。「シロス写本」は、今も大英図書館に所蔵されている。

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文=MONICA WALKER VADILLO/訳=ルーバー荒井ハンナ

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