Photo Stories撮影ストーリー

顕微鏡で見た「作物」の知られざる姿、写真11点 「思考の糧」に

2021.10.25
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
誌面で読む
チア(SCANNING ELECTRON MICROSCOPE PHOTOGRAPH BY ROBERT DASH)
チア(SCANNING ELECTRON MICROSCOPE PHOTOGRAPH BY ROBERT DASH)

 800倍に拡大したこの画像に写るチアの種(チアシード)は、ミネラル、抗酸化物質、食物繊維、脂肪酸、9種類の必須アミノ酸すべてを含む擬穀類だ。マヤの人々は、3000年以上前からこれを主食として食してきた。

 チアは現在、温暖化防止にも貢献できるグルテンフリーのスーパーフードとして注目されており、また貧困地域に必要な栄養源ともなっている。需要の急激な増加により、特にウガンダや東アフリカの農業地域でチアへの関心が高まっている。そうした場所では、小規模な農家や難民が、チアのおかげで従来の綿花作物の5倍の収入を得ている例もある。

 チアの種を包むゼラチン状の膜は、水分保持に役立っている。研究者はこの働きの分析を進め、干ばつの脅威にさらされているほかの種に応用することを目指している。チアはまた、エジプトや中東においても、従来の農法で小麦を育てるよりもはるかに少ない水で栽培できる貴重な作物として普及が進められている。

ホップの葉(SCANNING ELECTRON MICROSCOPE PHOTOGRAPH BY ROBERT DASH)
ホップの葉(SCANNING ELECTRON MICROSCOPE PHOTOGRAPH BY ROBERT DASH)

 240倍に拡大したホップの葉。表面は毛状突起に覆われている。ホップと大麦はビールの醸造に欠かせないが、人気のクラフトビールに使われているホップの品種の中には、干ばつ、高気温、異常気象の影響を受けているものもある。

 米ワシントン州のヤキマバレーは、世界最大級のホップ栽培地だが、カスケード山脈の雪塊氷原や氷河の縮小により、ホップ農家が使える水が減っている。ホップは害虫やカビに弱く、天候不順によってその影響はさらに大きくなる。ホップを屋内で生産するというのも解決策のひとつだ。現在、ホップの代わりにミントやバジルの汁を加え、遺伝子編集酵母でビールを造る研究が行われている。

ヤマブシタケ(SCANNING ELECTRON MICROSCOPE PHOTOGRAPH BY ROBERT DASH)
ヤマブシタケ(SCANNING ELECTRON MICROSCOPE PHOTOGRAPH BY ROBERT DASH)

 ヤマブシタケの白いひげを400倍に拡大すると、その複雑な構造が見えてくる。真菌類のネットワークは、健康な土壌、植物の成長に最適な環境、さらには雨を生み出すうえでも、このうえなく重要だ。菌糸は土壌でインターネットのような役割を果たし、植物に微量栄養素を運ぶ。この菌の“マット”にはお返しとして、植物の光合成によって生成された糖分が与えられる。マットは土壌をまとめ、死んだ動植物の分解を助け、空気中に何兆個もの胞子を放出し、それが雨の「種」となって雲の形成を助ける。

 地球上の炭素の16%が蓄積されている北方森林帯では、樹木よりもキノコの方が多く炭素を蓄えている。さらに、一部のキノコはがんなどの病気に効果があることがわかっており、またキノコから抽出したエキスを重要な花粉媒介者であるミツバチに与えれば、彼らのコロニー崩壊の原因となるウイルス感染を予防できる。

 真菌は産業界でも活用されている。廃棄物となるトウモロコシの芯や木の繊維に菌糸を混ぜ合わせれば、梱包材やプラスチック、接着剤などに使える複合材料を作ることができる。こうした製品はコルク、ゴム、プラスチック、革のように機能し、廃棄された後は土壌に栄養分を与えてくれる。

ブルーベリー(SCANNING ELECTRON MICROSCOPE PHOTOGRAPH BY ROBERT DASH)
ブルーベリー(SCANNING ELECTRON MICROSCOPE PHOTOGRAPH BY ROBERT DASH)

 300倍に拡大すると、まるでうろこに覆われているように見えるブルーベリーの小さな種子。新たな害虫や異常気象、花粉媒介者の減少をもたらす季節のシフトが、世界中でブルーベリーに影響を与えている。

 たとえば、早めに発芽したところに不意の凍結が襲うと、作物が全滅してしまうこともある。1850年代、作家のヘンリー・デビッド・ソローは、米マサチューセッツ州ウォールデン池にある自宅付近のハイブッシュブルーベリーの平均的な開花時期を5月16日と記録した。2012年にボストン大学の生物学者リチャード・プライマック氏が確認したところによると、現在の平均は4月23日であり、もっとも早いデータは4月1日だった。ブルーベリーが生育する範囲は高緯度に移動しつつあり、今では野生のブルーベリーの供給源として、カナダのケベック州が、米国北部のメーン州と競い合っている。さらなる脅威として、温暖な気候で繁殖し、若い果実に害を与える侵略的なミバエの一種オウトウショウジョウバエがいる。

 賢い消費者は食品がどこで採れたかに気を配るだろうが、炭素の排出に大きな影響を及ぼすのは、移動距離よりもその輸送方法だ。たとえば英国にいる人が、地元で採れたブルーベリーをひと箱購入した場合と、ほかの国から船で運ばれてきたものをひと箱購入した場合の炭素排出量はほぼ同じであり、航空機で運ばれたものの約10分の1だという。

会員向け記事を春の登録キャンペーンで開放中です。
会員登録(無料で、最新記事などメールでお届けします。

会員登録(無料)のメリット

  • 1ナショジオ日本版Webの
    無料会員向け記事が読める
  • 2美しい写真と記事を
    メールマガジンでお届け

文・写真=ROBERT DASH/訳=北村京子

おすすめ関連書籍

2022年2月号

ノートルダム 再建への道のり/冬のK2に挑む/巧みに適応した魚/誇り高きカウボーイたち/農作物のミクロの世界

ノートルダム大聖堂の大火災から3年。2024年の再建を目指して修復が進むなか、ナショジオは現場への立ち入りを特別に許され、作業に携わる人々の懸命な姿をレポートします。このほか、2月号ではネパール人だけの登山隊が偉業を遂げた「冬のK2に挑む」、シクリッドの多様な世界をのぞく「巧みに適応した魚」などの特集をお届けします。

定価:1,210円(税込)

おすすめ関連書籍

グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界

世界経済フォーラムのクラウス・シュワブ会長とオンラインメディア『マンスリー・バロメーター』の代表ティエリ・マルレが、コロナ後の世界を読み解く。

定価:2,200円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
誌面で読む

Photo Stories 一覧へ