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顕微鏡で見た「作物」の知られざる姿、写真11点 「思考の糧」に

2021.10.25
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 サラダからデザートまで、食卓の皿に乗っている食品の多くは、丹念に栽培された作物に由来する。あなたが食べている肉でさえ、おそらくは作物を食べて育った動物のものであり、太陽から得たエネルギーを地球規模の食物連鎖に送り込んでいる。

 現代の農業はしかし、環境に大きな負担をかけている。トウモロコシやダイズといった作物の多くは、化石燃料を使った肥料や農薬によって維持される大規模な農場で育てられる。野焼きを伴う農業は森林を減らし、大気中に余分な二酸化炭素を放出する。過剰に耕した土は、土壌をまとめる真菌ネットワークを破壊し、干ばつによってすでに疲弊している水資源を浪費して、浸食を助長する。

 これらは、われわれの食料システムが気候変動と結び付いていることを示す例のごく一部に過ぎない。9月13日付けで学術誌「Nature Food」に発表された推計によると、農業が温室効果ガス排出量に占める割合は30%以上にのぼるという。

 持続可能な農業に向けた動きの一環として今、多くの食料生産者や投資家たちが、先進的な方法や、はるか昔に使われていた方法を取り入れつつある。こうした取り組みは「環境再生型農業」と呼ばれる。たとえば、植物の遺伝的多様性を高めたり、大気中の窒素を固定して土を覆う「被覆作物」を植えたりすれば、土壌の健康状態を改善し、より多くの炭素を吸収する助けとなる。

 教師として、写真家として、小さな自然の生涯のファンとして、わたしは食用作物と、それが気候に及ぼす脅威や解決策との間にある魅力的な関係に注目している。走査型電子顕微鏡を使って拡大した小さな世界が呼び起こす畏怖と魅惑の念が、今日の生態系の崩壊への理解と、これを元に戻す努力の一助となることを願いつつ、“思考の糧(Food for Thought)”として写真を発表している。

オリーブ(SCANNING ELECTRON MICROSCOPE PHOTOGRAPH BY ROBERT DASH)
オリーブ(SCANNING ELECTRON MICROSCOPE PHOTOGRAPH BY ROBERT DASH)

 アルベキーナという品種のオリーブの花のつぼみを80倍に拡大した画像。レストランで人気の高い、黒くて香りのよい実を付ける品種だ。オリーブは多年生の木本植物で、長期にわたって炭素を吸収できる。国際オリーブ協会によると、オリーブオイル1リットルあたり11キロのCO2が吸収されるという。

 オリーブは世界の多くの地域で主要な食品となっているが、気候の乱れは果樹園に大きな被害をもたらしている。イタリアでは500品種以上が栽培されており、同国のオリーブオイル産業は2017年には30億ユーロ(約4000億円)以上の規模があった。しかし2018年、業界は大きな打撃を受けた。異常な寒さ、暑さ、雨によって木々が弱ったところに、熱帯の侵略的な細菌がまん延した。この細菌の拡大を防ぐために、樹齢1400年のものを含む何千本もの木が伐採された。

 モロッコでは、丘陵の浸食を軽減するために段々畑にオリーブを植え、点滴灌漑で水やりを行っているところもある。米国カリフォルニア州では、スペインの宣教師が18世紀にオリーブの木を植えたところ、これが大いに繁殖し、主にテーブルオリーブ(塩漬けやオイル漬けにした果実)が生産されるようになった。気温の上昇、天候不順、山火事の増加により、今では数十種類のオリーブ品種が北のオレゴン州で栽培されるようになりつつある。

ヒマワリ(SCANNING ELECTRON MICROSCOPE PHOTOGRAPH BY ROBERT DASH)
ヒマワリ(SCANNING ELECTRON MICROSCOPE PHOTOGRAPH BY ROBERT DASH)

 トゲのある花粉がヒマワリの筒状花(花の内側に集まっている筒状の部分)を覆っている様子をとらえた700倍の拡大写真。近年、ヒマワリを研究する科学者たちが、この植物の遺伝子を調べる世界的なチームを結成した。その結果、ヒマワリのゲノムサイズはヒトより20%大きく、遺伝子の数も約2倍であることがわかった。これにより、非常に多様な遺伝子の組み合わせが可能となり、70種ものヒマワリの誕生につながった。

 ゲノムの解析は、この植物がストレスの多い環境下でどのように育つのかを理解するのに役立つ。干ばつ、気温の上昇、高塩分、病気といったストレスに強いことで、ヒマワリは、2つの異なる品種を交配したハイブリッド種子を使う作物として、トウモロコシに次いで世界中で生産されている。

 種子の収集家たちは、将来的な気候ストレスに対処するために野生種の保存に努めている。農家では土壌を改善し、水を節約し、農薬の使用を抑えるために、さまざまな被覆作物のひとつとしてヒマワリを栽培している。米カンザス州サリナにあるランドインスティテュートでは、耕起、肥料、農薬の使用量が少なくて済む多年生品種を開発中だ。(参考記事:「気候変動に強いヒマワリを カギは近縁の野生種に」

ソラマメ(SCANNING ELECTRON MICROSCOPE PHOTOGRAPH BY ROBERT DASH)
ソラマメ(SCANNING ELECTRON MICROSCOPE PHOTOGRAPH BY ROBERT DASH)

 ソラマメの花の葯(やく)に花粉が数粒ついているところをとらえた3400倍の拡大写真。ソラマメは重要な被覆作物であり、合成肥料の削減に貢献する。窒素を固定する働きは、根瘤に生息するバクテリアが担っている。

 デンマークの研究者らはこの植物を、地域で採れる消化のよい植物性タンパク質の供給源として推奨している。気候の寒冷な北欧諸国は、遠い国から輸入されるダイズの代用としてソラマメを活用している。一部のペットフード製造企業は、ソラマメのタンパク質を製品に加えており、海で取る魚の需要削減につながっている。

 ソラマメは赤血球の酵素の異常であるG6PD欠乏症の人たちに中毒症状(重度の貧血反応)を引き起こすことがある。この問題に対処するため、ソラマメに含まれる中毒の原因物質を除去する研究が進められている。

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