Photo Stories撮影ストーリー

2021年9月、飼育員であるアンドレ・バウマ氏の腕の中で息を引き取った、メスの孤児のマウンテンゴリラ、ンダカシ。(Photograph by Brent Stirton)

殺害事件で親を失ったゴリラ「ンダカシ」逝く、飼育員に愛された14年 写真9点

2021.10.14
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 2007年、私は仕事でコンゴ民主共和国のビルンガ国立公園を訪ね、武装組織と戦う公園レンジャーたちと行動を共にしていた。絶滅危惧種であるマウンテンゴリラが殺されたという情報が入ってきたのは豪雨の中だった。ライフル弾を何発となく撃ち込まれた母親の死体に、生後数カ月のゴリラがしがみついていた。血と雨が死体を囲うようにたまる中、彼女は母親の乳を吸おうとしていた。それが孤児ゴリラ「ンダカシ」との出会いだった。

 野生のマウンテンゴリラは現在、1000頭余りしか残っていないが、当時はわずか400頭しかおらず、この殺戮は大きな話題になった。ンダカシはこのゴリラ家族の唯一の生き残りだった。(参考記事:「ゴリラ殺害事件の真相」

 ンダカシは弱っていて、長くは生きられそうになかった。レンジャーのアンドレ・バウマ氏は雨の中から彼女を救い出し、朝まで自分の体で温めた。これが14年に及ぶ愛情深い関係の始まりだった。

 バウマ氏は現在も、アフリカ初の国立公園ビルンガに設立されたセンクェクェ・センターで、飼育員長を務めている。ンダカシは、このセンクェクェに移り、他のマウンテンゴリラの孤児たちと一緒に暮らすようになった。ここは全ての孤児たちが24時間体制でスタッフの世話を受ける場所だ。獣医師のエディ・シャルハ氏と「ゴリラ・ドクターズ」(ゴリラを診察する獣医師たちのグループ)が奇跡を起こし続ける場所でもある。

2007年7月、ビルンガ国立公園。ゴリラの殺害現場に立つ、アンドレ・バウマ氏ら公園関係者たち。(Photograph by Brent Stirton)
2007年7月、ビルンガ国立公園。ゴリラの殺害現場に立つ、アンドレ・バウマ氏ら公園関係者たち。(Photograph by Brent Stirton)
レンジャーらが見つけたメスのマウンテンゴリラの遺体。死んだ母親の乳を吸おうとしていた赤ちゃんゴリラは、後にンダカシと名付けられた。(Photograph by Brent Stirton)
レンジャーらが見つけたメスのマウンテンゴリラの遺体。死んだ母親の乳を吸おうとしていた赤ちゃんゴリラは、後にンダカシと名付けられた。(Photograph by Brent Stirton)
2013年10月、ンダカシと飼育員の一人、バブー氏。飼育員たちは3週間ごとのシフトで孤児たちと生活を共にする。(Photograph by Brent Stirton)
2013年10月、ンダカシと飼育員の一人、バブー氏。飼育員たちは3週間ごとのシフトで孤児たちと生活を共にする。(Photograph by Brent Stirton)

 マウンテンゴリラは驚くほど繊細で優しい生き物だ。彼らには個性がある。彼らは喜び、悲しむ。人間と同じだ。ンダカシはそれらの全てを飼育員たちと共有した。飼育員たちは自分の家族よりもゴリラと一緒にいる時間の方が長い。彼らはゴリラたちを愛し、「私の子供たち」と呼ぶほどだ。

 献身的な世話を受けてきたにもかかわらず、ンダカシは半年ほど前に謎の病に冒された。そうして2021年9月26日、14年前に彼女を救ったバウマ氏の腕の中で息を引き取った。バウマ氏の悲しみの深さは計り知れない。

 連絡を受けたとき、私はビルンガの別の場所で、公園のリーダーたちと一緒だった。それまで熱心に議論を交わしていた全員が、知らせを聞いて黙り込んだ。思いがけないことであり、とても悲しいことだった。

ギャラリー:愛された孤児ゴリラの思い出、人間との深い絆、写真9点
ギャラリー:愛された孤児ゴリラの思い出、人間との深い絆、写真9点
2015年11月、センクェクェ・マウンテンゴリラ孤児センターでゴリラと遊ぶ飼育員たち。ボールを持っているのがンダカシ。ここは世界で唯一のマウンテンゴリラの保護施設であり、密猟や紛争で家族を亡くしたゴリラを受け入れている。(Photograph by Brent Stirton)

 2007年以降、私はビルンガで仕事をすることが多く、1~2年ごとにやって来ては、ンダカシの成長を目の当たりにしてきた。ンダカシと3頭の孤児たちは世界で唯一の飼育下にあるマウンテンゴリラだが、バウマ氏らが実に良くケアしていることに、私は感心していた。

 飼育員は4人いる。誰も博士号を持っているわけではないが、どんな学者よりもゴリラについて詳しい。

次ページ:人間と動物たちとの絆

おすすめ関連書籍

世界一の動物写真 増補改訂版

世界最高峰のネイチャー写真賞「ワイルドライフフォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」50周年を記念して出版した「世界一の動物写真」のアップデート版。

定価:3,960円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Photo Stories 一覧へ