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ヴィラ・ファルコニエリの敷地内にあるオークの古木。巨大な枝が、支柱で支えられている。このヴィラは16世紀に建てられ、17世紀に改修された。この2つの時期の間のどこかで、このオークの若木が植えられたという。(Photograph by Elisabetta Zavoli)

古くて美しい「記念碑のような樹木」 イタリアが2万2000本を保護 写真11点

2021.09.12
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 イタリア、アブルッツオ州の広大な森の中、ゆるやかに起伏する小さな丘のてっぺんに、ずんぐりした巨木、「ポントーネ・ブナ」が鎮座する。実はこのブナ、1本の樹木ではなく、7本のブナが一体化して、大きくふくらんだ土台を形成している。空に向かって伸びるがっしりした枝は、長さ20メートル以上にもなる。土から顔をのぞかせた根は、周囲の無数の若いブナの根とからみあっている。

「これは『母なるブナ』です」と、アブルッツォ・ラーツィオ・エ・モリーゼ国立公園のレンジャー、ロマーノ・ヴィシー氏。「次世代のブナが育つように種を落としてくれるのです」

「ポントーネ・ブナ」と呼ばれるヨーロッパブナ(Fagus sylvatica)を見上げる国立公園のレンジャー、アルベルト・コクッチ氏。(Photograph by Elisabetta Zavoli)

 この一帯のブナは、数世紀にわたって、主にたきぎの材料として伐採され、厳しい冬の寒さに耐える村人たちを支えてきた。だが、ヴィシー氏によれば、ポントーネ・ブナは、種を落とす役割を担う木として地元の人々が手をつけずに守ってきたため、現在の姿にまで成長したという。樹齢については諸説があるものの、地元では約750年とされ、この国立公園を象徴する存在となっている。

 同じくレンジャーのアルベルト・コクッチ氏は、40年前に初めてこの木を目にした時のことを「こんな木があるなんて想像したこともありませんでした」と振り返る。

アブルッツォ・ラーツィオ・エ・モリーゼ国立公園内で草を食む羊の群れ。背後に見えるポントーネ・ブナは、樹齢約750年だ。(Photograph by Elisabetta Zavoli)
ヴィラ・ファルコニエリのオーク。樹皮には、異なる色で幾重にも刻まれた深いしわがある。(Photograph by Elisabetta Zavoli)

 このポントーネ・ブナ以外にも、イタリア国内には、その並外れた美しさ、驚くべき樹齢、社会的、文化的意義を評価された2万2000本の古木が点在する。こうした樹木は、古くから「記念碑的樹木(alberi monumentali)」と呼ばれ、主にその美しさや歴史的価値が評価され、保護の対象となってきた。近年はさらに、生態系に様々な利益をもたらしている点についても、評価が高まっている。

「生態学的な価値が加わったのです」。エドマンド・マッハ財団の生態学者で、イタリアの記念碑的樹木を研究してきたリビア・ザッポーニ氏はこう話す。「マイクロハビタット(小さな生息地)は、非常に多くの動物や危機にある種のすみかとなっています」

老化にともなう特徴も評価

 1939年、イタリアでは記念碑的樹木を保護する最初の法律が制定された。記念碑的樹木は「驚くべき自然の美を有する不動のもの」とされた。だが、アブルッツォ・ラーツィオ・エ・モリーゼ国立公園の管理責任者、ルチアーノ・サマローネ氏によれば、この法律は、見た目に基づいて樹木を保護しようという限定的な内容だった。

 ところが、記念碑的樹木は単に外観が美しいだけの存在でなく生物多様性の推進力だと、ザッポーニ氏は言う。朽ちかけた枝やぽっかり開いた穴、深い割れ目といった老化にともなう特徴は、長い間、樹木の欠点と見なされてきた。しかし、このような特徴こそが、昆虫や幼虫、キノコ類、菌類、地衣類、鳥類、小げっ歯類を古木に引き寄せているのだ。樹木をすみかとする種の中には、絶滅の危機に瀕している生物もいる。たとえば、ポントーネ・ブナの樹皮の内部には、アルプスルリボシカミキリ(Rosalia alpina)という希少な甲虫が生息している。

「現在では、過去に欠点とされていた特徴を重視して、こうした古木の保護を提案するようになりました。まさに文化的な変革です」と、ザッポーニ氏は語る。

「ポッリーノの長老」と呼ばれているボスニアマツ(Pinus leucodermis)の古木。樹齢はおよそ600年。岩だらけのやせた地面に根を張りめぐらせ、幹をしっかり支えている。(Photograph by Elisabetta Zavoli)
ボスニアマツの根元から夕日を眺めるカラブリア州ポッリーノ国立公園のガイド、ルカ・フランチェーゼ氏とカーマイン・ロー・トゥフォ氏。(Photograph by Elisabetta Zavoli)

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