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日差しを避けて涼しい岩陰の巣に戻ろうとする、米国コロラド州ロッキーマウンテン国立公園のナキウサギ。標高の高いところでの越冬に適応したナキウサギは、夏の気温の上昇にはとくに敏感だ。「コロラドナキウサギプロジェクト」は、この愛すべき北米在来種をより厳重に保護するために、できる限り多くのデータを集めることを目指している。(Photograph by Kristi Odom)

気候変動に敏感なナキウサギを守る、ボランティア調査隊の活躍 写真10点

2021.09.14
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気候変動の指標

 ナキウサギがもっともよく見られるのは、標高4300メートルまでの高地。ただし彼らは、夏涼しく冬暖かい地域であれば、標高が低くとも生息することができる。冬眠はせず、岩の下に身を隠し、積もった雪による断熱効果を活用して、巣を常に暖かく保っている。

 2000年代、研究者らは、標高が低く乾燥したネバダ州とその周辺の州で、ナキウサギの数が減少していることに気がついた。

 これは、ナキウサギの生息地の一部が、気温の上昇にともない、生息に適さなくなりつつあることを示していた。また、気候変動とはかかわりなく、夏が比較的暑く、冬に雪があまり降らない地域では、局地的なナキウサギの絶滅が起こっていることも確認された。

コロラド州、ブレイナード湖レクリエーションエリアに研究者が設置したトラップにかかったナキウサギ。体の寸法やバイタルサインを測定し、耳にタグを付けてから解放する。(Photograph by Kristi Odom)
ナキウサギの小さな後ろ足のサイズを測定する、ナキウサギの研究者クリス・レイ氏(右)と学生のオースティン・ナッシュ氏(中央)。記録をとっているのは学生のクリスタル・ゴンザレス氏。(Photograph by Kristi Odom)
レイ氏(手前右)とトレーナーのパトリック・クロウェル氏(レイ氏の後ろ)に引率され、初めてのナキウサギの観察に挑むナキウサギパトロールのボランティアたち。(Photograph by Kristi Odom)

 コロラド州では、ナキウサギの姿は今でもあちこちで見られるが、気温が上昇し、永久凍土層が解けた場所では、ナキウサギの生存率が下がり、集団の間の移動が少ないことがわかっている。2015年、米国立公園局と3つの大学が行った5年間の調査により、ナキウサギは2100年までに、適切な生活環境が失われることが原因で、ロッキーマウンテン国立公園から事実上いなくなる可能性があることが示された。

 しかし、レイ氏がもっとも懸念しているのは冬の積雪量の減少だ。ここ数十年間、西部では冬が短く降雪が少ないせいで、毎年春の雪解けが早まり、ナキウサギは雪を利用した断熱ができなくなっている。そうなれば、貯めておいた食料は枯渇し、子供がまだ弱々しい時期に冷たい春の風にさらされることになる。

「ナキウサギが暖かく過ごすためには、雪に覆われていることが必要なのです」とレイ氏は言う。「ナキウサギの体は、-5℃~0℃の間で快適に過ごせるようにできています。気温がそれよりも下がると、体を暖かく保つためのカロリーが不足し、冬を越すのが難しくなります」

麻酔が充満した容器でナキウサギをおとなしくさせてから測定を行う。(Photograph by Kristi Odom)

 岩の下の環境もまた、ナキウサギが夏を涼しく過ごし、暑さを乗り切るうえで重要な役割を果たしている。「ナキウサギは夏の高温に対して、ほかの種よりも生理的に敏感です」と、ロッキーマウンテンワイルドの上級保護生物学者ミーガン・ミューラー氏は言う。「ですからナキウサギには、気候変動の影響がほかの種よりも早く現れると考えられるのです」

 ナキウサギは夏の間、岩の斜面と、隣接する草地とを頻繁に行き来して冬に備える。野草やアザミなどの植物を口いっぱいに集め、冬を食いつなぐために蓄えるのだ。ある記録によると、一匹のナキウサギは毎年夏、平均で1万3000回、餌を集めに出かけ、約4.6kgの食料を蓄えるという。「こうして貯蔵した草は非常に重要な資源です」とミューラー氏は言う。ナキウサギは独特の鳴き声で有名だが、その多くはなわばりを守るためのものだ。「ご近所さんたちに、自分はここにいて、貯め込んだ草を守っているぞと知らせているのです」(参考記事:「ナキウサギがヤクのうんちを食べて越冬、異色の戦略が判明」

ナキウサギの生息を支える涼しい環境は、何百万人もの人々に水を供給する氷の保存にも役立っている。「ナキウサギが減っている場所では、地下の氷も減っているものと思われます」とレイ氏は言う。「つまり、ナキウサギは西部の水域の健全性を示す指標のようなものなのです」(Photograph by Kristi Odom)

手遅れになる前にできること

 コロラドナキウサギプロジェクトの研究者たちは、ナキウサギパトロールが行っているモニタリングにより、今後3〜5年の間に、全生息域でのナキウサギの状況をより完全に把握できるようになると考えている。ボランティアはロッキーマウンテン国立公園やホワイトリバー国有林でも活動しており、収集されるデータは、公有地でのナキウサギの管理や高山の生態系の保護全般に役立てられることになっている。「種の衰退が始まったときに助ける方が、なんとか命をつないでいるという状態から助けるよりもずっと簡単なのです」と、デンバー動物園のウェルズ氏は言う。

 ナキウサギパトロールのメンバーであるジョー・ポーズバックさんとヘンリー・ポーズバックさん(コロラド州リトルトン在住の父と息子)は、このプロジェクトに参加したおかげで、高地を歩くことに特別な意味が生まれたと語る。2人はすでに毎年夏に行われる調査に3回参加し、5カ所のナキウサギの観察地点でデータを収集してきた。(参考記事:「世界に鳥は何羽いる? 種ごとの推定から求めた初の研究結果、市民科学が貢献」

 15歳で高校2年生のヘンリーさんは、気候変動に関する誤った情報に対抗するためにボランティア活動をしていると語る。「このかわいらしい動物を見て、彼らが実際に人間の行動による影響を受けていることが納得できれば、気候変動がよりリアルに感じられるようになります」とヘンリーさんは言う。「ぼくはそこに惹かれました。たとえささやかでも、自分が変化を生み出しているのだと感じるのです」

ナキウサギが冬の備えを続けられるよう、貯蔵した草のそばに放すレイ氏。ナキウサギはこの後、岩の下の巣穴で、断熱効果のある雪の毛布に守られて冬を過ごす。(Photograph by Kristi Odom)

文=AMANDA MASCARELLI/写真=KRISTI ODOM/訳=北村京子

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