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古代海洋商業貿易の重要な港だった中国の泉州も、ユネスコの世界遺産リストに追加された。(Photograph by Song Weiwei, Xinhua/Getty Images)
2021年登録の世界遺産、34件が新たに加わりリバプールは抹消
2021.08.22
ところで、世界遺産の登録が取り消された場合、どのようなことが起こるのだろうか。今回、英国のリバプールがこの世界遺産リストから抹消された。米スミソニアン協会の機関誌に掲載されたレポートによると、「この英国の都市は、ウォーターフロントの再開発を理由に登録を取り消すべきではないと主張した」が、「顕著な普遍的価値を伝える特性が、取り返しのつかない形で損なわれた」と指摘するユネスコ世界遺産委員会の決定は変わらなかった。(参考記事:「海商都市リバプール、危機遺産2012」)
リバプールの世界遺産登録の抹消は、オマーンの「アラビアオリックスの保護区」、ドイツの「ドレスデン・エルベ渓谷」に次いで3件目だ。今後、英国のストーンヘンジやオーストラリアのグレートバリアリーフなども、登録を取り消されるのではないかとの懸念が高まっている。
残念なことに世界遺産に対する脅威は増しており、現在「危機にさらされている世界遺産リスト(危機遺産リスト)」には52件が登録されている。中でもマダガスカルのアツィナナナ雨林は、広範囲にわたって違法な伐採とキツネザル猟に脅かされている。
米フロリダ州のエバーグレーズ国立公園も、水生生物の生態系悪化などを理由に危機遺産リストに登録された。この登録は同国の要請に基づくもので、世界の差し迫った環境保護の問題を、国際協力によって改善できないかという期待を示している。
ハドラマウト地方にあるシバームは、16世紀の高層建築が立ち並ぶ都市。1930年代、英国の探検家フレヤ・スタークは、この泥の高層ビル街を「砂漠のマンハッタン」と呼んだ。シバームは2015年、内戦などの影響で危機遺産リストに追加された。(Photograph by George Steinmetz, Getty Images)
ユネスコはもうひとつ、特定の場所に固有の失われやすい文化、伝統、技術、知識の保護を目的とするリストを作成している。この「人類の無形文化遺産リスト」には、その土地で生まれた伝統音楽、祭り、工芸、食文化などが登録される。たとえば中国の影絵芝居やアルゼンチンタンゴなどについて、国がその文化の推薦とプロモーションを行った後、登録を受ける価値を有するかをユネスコの委員会が検討する。
2020年時点で、無形文化遺産リストには584件の登録がされており、ウズベキスタンの祭りで演じられる即興芸術、キルギスの移動式住居「ユルト」、ブラジルの格闘技舞踏「カポエイラ」などが含まれる。フランスの美食術は、その構成(食前酒、前菜、メイン、チーズ、デザート、リキュール)、ワインとの絶妙な組み合わせ、優雅なテーブルセッティングなどが認められた。そのほかにも、メキシコの祭礼行事「死者の日」、中国の京劇、ポルトガルの大衆歌謡「ファド」などが記載されている。
リストは毎年追加されており、今年11月の第16回委員会で2021年の候補の審議が行われる。すべては、世界の多様な文化と共通の人間性の尊重を通じて平和な世界の実現を目指すという、ユネスコの使命に沿っている。(参考記事:インタビュー鈴木亮平「世界遺産は僕の想像力をかき立てる」)
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