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南米を目指して数千キロの旅を始める前に、フロリダ州のオキーチョビー湖近くの野生生物回廊内の牧場で休むツバメトビの群れ。大陸を縦断して渡りを行う鳥たちにとって、このような緑地は、大切な休息地点となる。 (Photograph by Carlton Ward Jr.)
米フロリダ州は、動物たちの「回廊」を保護・整備するために、4億ドル(約450億円)を拠出することを決定した。フロリダの自然保護の歴史における大きな進展だ。
「フロリダ野生生物回廊法」と名付けられたこの法案は、4月下旬、フロリダ州上下両院において全会一致で可決され、6月29日、ロン・デサンティス州知事が署名した。
この法律によって、森林や湿地帯から田畑や放牧地まで、同州の大部分に広がる緑地を結ぶ「フロリダ野生生物回廊」の存在が、正式に承認された。
道路建設や開発がもたらす生息地の分断は、生物多様性における最も深刻な脅威のひとつとなっている。分断された生息地をつないでくれる野生生物回廊は、フロリダの多くの動物たち、とりわけフロリダパンサーやアメリカクロクマ、カワウソ、ワニ、さらには鳥たちにとって欠かせない。
法律に伴って、私有地の保全地役権や土地の購入など、回廊内の土地の保全に3億ドルが割り当てられる。この予算は、同様の役割を担う土地保全プログラム「フロリダ・フォーエバー」の予算1億ドルに上乗せされる。
今回の法律は、農地を開発から守ること、自然地域での継続的なレクリエーション利用を提供すること、安全な水と空気を確保することも目的としている。米国で3番目に人口が多く、1日に平均1000人が転入するフロリダ州では、きわめて重要な取り組みだ。
「私たちが何より望んでいたことです」。野生生物回廊法の可決について、キシミー湖近くで6世代続く牧場を営むケーリー・ライトシー氏はこう話す。土地を保護することで「天然資源を維持し、絶滅の危機にある動物を保護し、何より地形を守ることができるでしょう」
自然保護活動家のトーリ・リンダー氏は、ナショナル ジオグラフィック協会の支援を受けて回廊の保護に取り組む「パス・オブ・ザ・パンサー」の事務局長で、法案の成立を後押ししてきた。「フロリダ野生生物回廊法の成立は、自然と人間が共存繁栄できる持続可能な開発のモデルを全米に提示したことになります。大変すばらしいことです」
回廊の特定
新たな法律では、フロリダ野生生物回廊に該当する条件を規定している。該当する土地の判断には、フロリダの自然に関する膨大なデータベース「フロリダ・エコロジカル・グリーンウェイズ・ネットワーク(FEGN)」の情報が活用される。
米フロリダ大学景観保全計画センターのディレクター、トム・ホクター氏が管理するこのデータベースには、動物の移動や生態系の測定値、生息地の種類、水の利用可能性など多くの要素が含まれている。回廊に該当しうる土地は全体で7万3000平方キロにおよび、現在は、そのうち4万平方キロが保護されている。

フロリダパンサーをはじめ多くの種にとって、分散したり、交配相手に出合ったり、広い行動圏を維持するために、回廊が必要だ。
絶滅が危ぶまれているフロリダパンサーは、1970年代には、ほぼ絶滅状態に近かったが、1990年代にテキサス州のピューマ5頭の遺伝子が導入されたことで、生息数が回復した。2016年には、フォートマイヤーズからオキーチョビー湖に流れるカローサハッチ川の北側で、1頭のメスが目撃された。
この43年ぶりの出来事は、フロリダパンサーが長期にわたって生き延びるために北方に移動しなければならないことを示唆しており、そのためには野生生物回廊が保全されることが重要だ。
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