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アーティストのドン・ジョン氏が住宅に描いた作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンの壁画。デンマーク、オーデンセのバングス・ボーダー通りで撮影。(PHOTOGRAPH BY JULIETTE ROBERT, HAYTHAM-REA/REDUX)

おとぎ話の世界、アンデルセンの故郷を旅する

2021.06.27
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 昔々、アンデルセンは子供たちに夢を与える物語を書いた。

「人魚姫」「親指姫」「裸の王様」「みにくいアヒルの子」などの代表作は19世紀に発表されてから、舞台や映画で子供たちの心をとりこにし続けている。

 そして、アンデルセン童話を楽しむ新しい方法ができた。ハンス・クリスチャン・アンデルセンの故郷であるデンマーク、オーデンセに総工費6400万ドルの博物館が数年かけて建設されたのだ。クリエイティブディレクターを務めるヘンリク・ルブカー氏が言う通り、アンデルセンの過ぎ去った時代をたたえるのではなく、「いつもその時代の人々を魅了してきたおとぎ話の世界への敬意」が表現されている。

 2021年6月末にオープンする「H・C・アンデルセンズ・フス(アンデルセンの家)」は建築家の隈研吾氏によるデザイン。映画「チャーリーとチョコレート工場」を連想させる建築、音、光のインスタレーションの複合体が、アンデルセン童話の世界観を建物の内と外に描き出している。

「おとぎ話の世界は直線ではなく曲線です」とルブカー氏は説明する。「おとぎ話の世界にはいろいろなものが隠されています。この博物館は秘密の空間やカーブを駆使し、人々の想像力をかき立てる工夫を凝らしています」

ハンス・クリスチャン・アンデルセンの生家の敷地内にある屋外劇場でパフォーマンスを鑑賞する人々。2015年8月19日撮影。(PHOTOGRAPH BY JORDI SALAS, ALAMY)
ハンス・クリスチャン・アンデルセンの生家の敷地内にある屋外劇場でパフォーマンスを鑑賞する人々。2015年8月19日撮影。(PHOTOGRAPH BY JORDI SALAS, ALAMY)

 例えば、地上の世界の一員になりたいという人魚姫の思いを表現したインスタレーションでは、来場者は透明な水槽の下から空を見上げる。博物館の最上階では、家族で魔法の薬を調合したり、人形劇を体験したり、白鳥の巣をつくったり、童話に出てくる理髪師にかつらをかぶせてもらったりできる。

 しかし、多くの意味で、何が展示されているかは重要ではない。博物館の真の目的は、空想の力を信じてもらうことだからだ。英王立文学協会の会長を務める小説家、神話作家のマリナ・ワーナー氏は「おとぎ話は読者の現実世界に変革の可能性をもたらします」と語る。「悪いことは当然起こりますが、必ず乗り越えることができます。おとぎ話にはさまざまな励ましがちりばめられています」

北欧神話にルーツを持つ町

 1805年に生まれたアンデルセンはコペンハーゲンから西に2時間のオーデンセで育ち、その街並みから数々の傑作のインスピレーションを得た。デンマーク第3の都市であるオーデンセの広場を横切ったり、フェスティバルに参加したりするだけで、必ずと言っていいほど想像力をかき立てられる。魔女の帽子を思わせる尖塔、曲がりくねった道、パステルカラーのタウンハウス、王家の庭園、雪のように白い宮殿など、空想の都市が完璧に具現化されている。

ギャラリー:おとぎ話の世界、アンデルセンの故郷を旅する 写真5点(画像クリックでギャラリーページへ)
ギャラリー:おとぎ話の世界、アンデルセンの故郷を旅する 写真5点(画像クリックでギャラリーページへ)
石畳の道が続くオーデンセは、神話とおとぎ話の魅力に満ちたバイキング時代の都市だ。(PHOTOGRAPH BY ELENA NOEVA, ALAMY)

 フュン島に位置するオーデンセの物語も、まるで風変わりな北欧の物語だ。言い伝えによれば、バイキング時代につくられたこの都市は北欧神話の知恵、戦争、詩、魔術の神であるオーディンの故郷で、海からの侵略を阻止するため、川岸に城壁が張り巡らされていた。11世紀に聖アルバニ教会で殺害されたデンマーク最後のバイキング王クヌート4世の遺骨とともに、とりでの遺跡は街の地下に埋まっている。

 モンゲムレストレーゼにあるたんぽぽ色の生家から川岸まで、アンデルセンが育った石畳の道を進むと、刈り込まれた生け垣、パーゴラ、橋のあるエウンティルヘーウン(文字通り、おとぎ話の庭)が見えてくる。

 その近くには、アンデルセン童話をモチーフにした彫刻の道がある。オーデンセ川沿いのアンデルセンの銅像から始まり、折り紙のボート、色とりどりのチョウ、野生のハクチョウ、タツノオトシゴ、羊飼いの女性と煙突掃除の男性、かがり針を経て人魚姫にたどり着く。オーデンセの街はある意味、アンデルセンが生み出したキャラクターの地図のようなものだ。

次ページ:童話とヒュッゲの関係

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