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カナダ北極圏でジャコウウシの死体に集まるオオカミ。(PHOTOGRAPH BY RONAN DONOVAN)

ナショジオの「秘密兵器開発担当」、特殊な撮影装置で非日常を可視化

2021.06.18
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 ジャコウウシの死体に群がるオオカミ。野生動物に肉薄したこの写真を撮るために、写真家は一切危険な目に遭っていない。

 それはひとつにはトム・オブライエン氏のおかげだ。オブライエン氏はナショナル ジオグラフィックの常勤の技術者で、この写真にも彼が設計したカメラトラップ(自動撮影装置)が使われている。ナショジオ本部での準備中、オブライエン氏はお腹をすかせた捕食者が口に入れる可能性を考えて、自分でカメラトラップに噛みついてテストしたという。

 もしもジェームズ・ボンドの映画なら、オブライエン氏はあの数々の仕掛けを用意した英諜報機関MI6の秘密兵器開発担当「Q」だろう。ただし、オブライエン氏が作るのは、私たちが世界の非日常的な光景を見られるようにするための装置だ。

ナショナル ジオグラフィックの技術者、トム・オブライエン氏。(PHOTOGRAPH BY MARK THIESSEN, NATIONAL GEOGRAPHIC)

「こんなものがあったらと私たちが考えるものなら、オブライエン氏はたいてい作ってくれるでしょう」と、ナショナル ジオグラフィックのライター兼編集者、ピーター・グウィン氏は語っている。実際そのとおりで、ナショジオのカメラ技術者たちは物語を視覚的に伝えるため、100年以上にわたって特別なカメラやそのほかさまざまな仕掛けを考案し、製作してきた。

「このようなアイデアはあまり明かしたくないのですが、読者の皆さんにだけ、1つお教えしましょう」。夜更かしして考えることは何かという質問に、オブライエン氏はこう答えた。今夢見ているのは、遠隔操作が可能な水陸両用のカメラ台を作ることだという。湿地などリモコン車が使えないような場所で、危険な動物や用心深い動物を近くから撮影できるようにするためだ。

「具体的な方法については秘密です。皆さんのご想像にお任せします」とのこと。

 オブライエン氏は非常に独創的だ。写真家が何をしたいのか、一緒に出し合ったアイデアを、調査、3-Dコンピューター設計、試作、そして製作を通じて実現していく。解決策を示せないことはほとんどない。1つだけまだ残っている課題だとオブライエン氏が認めるのは、水中用のカメラトラップのセンサーだ。

「一般的な陸上用のカメラトラップのセンサーは、動きを感知して動作します」と説明する。「しかし、そのままでは水中では使えません」。今はまだ。

 オブライエン氏のワークショップの最初の言葉はいつもこうだ。「私がここにいるのは、幅が広いもの、長いもの、奇妙なものを撮れるようにするためです」。では一緒に、そのハイライトを見てみよう。

次ページ:オブライエン氏の「秘密兵器」で撮った写真たち

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