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35年以上巡礼に参加してきたリチャート・アイバル・キスペ・ソトさんは言う。「氷河が消え、私たちは何が起こったのかと自問しました。人は、『罪だ、罪を犯したからだ』と言うでしょう。けれど、そうではありません。原因は温暖化です」(PHOTOGRAPH BY ARMANDO VEGA)

アンデス先住民に伝わる大巡礼、氷河とともに消える伝統 写真15点

2021.05.03
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 踊り手として巡礼に10年参加しているヘリオ・レガラドさんは、融解する氷河について、「私たちが失おうとしているものは、足元の大地ではありません。母を失おうとしているんです」と語った。

「氷河の守護者」と呼ばれる舞踊団の踊り手であるアイバル・キスペさんも、自分自身は雪の浄めを受けて育ってきたが、氷河の融解によって、同じ祝福を未来の世代は受けられないのかと思うと悲しい、と話す。

ルシオ・ウチュラ・オルドニェスさん。ケロ族が住むチュアチュア村の自宅で。この地域に住む人々は、インカ直系の子孫とされているが、気候変動の影響で雨の周期が変化し、ここでの生活や仕事もそれに合わせて変わらざるを得なくなっている。(PHOTOGRAPH BY ARMANDO VEGA)
長老のアレハンドロ・キスペ・フアマンさん。最近では、アンデスの文化を学びにやってくる訪問者を受け入れる住民が増えた。(PHOTOGRAPH BY ARMANDO VEGA)
フアラフアラ村では、伝統的な踊りと大地への供え物で記念日を祝い、女性は色彩豊かな民族衣装を身に着ける。最も鮮やかな衣装をまとうのは、独身女性だ。(PHOTOGRAPH BY ARMANDO VEGA)

「もし氷河が消えて、コイヨリッティへ行くことができなくなったとしても、私の信仰は失われません。けれど、心は痛むでしょう。自分の一部が消えてしまうような気がします」

 世界最長の山脈であるアンデス山脈は、ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ボリビア、チリ、アルゼンチン、ペルーの7カ国にまたがっている。世界の熱帯氷河の70%はペルーにあり、最近ではその融解が尋常ではない速さで進んでいると、複数の研究が警鐘を鳴らしている。

 その結果、長い間の伝統だった宗教儀式の一部は、変更を余儀なくされている。

母なる地球パチャママへ供え物を捧げるフアラフアラ村の人々。(PHOTOGRAPH BY ARMANDO VEGA)

 2004年、氷河の融解速度を少しでも遅らせるため、祭りの主催者は、氷を切り出して人々に配布する習わしを禁止した。先住民は、氷河の融解水には癒しの力があると信じている。「それを聞いた多くの人が、涙を流しました。数百年間続いてきた伝統でしたから。でも、そうしなければならなかったんです」と、祭りの関係者であるノルベルト・ベガ・クティパ氏は言う。

 かつては、分厚い氷河が聖地のすぐ近くまで伸びていたため、そこから山を登る巡礼者の足元を、月明かりが照らしてくれた。

コルケプンク氷河の前に立つマルセリノ・ロペス・アンカリさんは、子どもの頃にこの氷河の上で洗礼を受けた。写真の岩の部分も、かつては氷で覆われていた。「ここ5~7年の間に気候が変わり、寒さも暑さも昔とはまるで違うものになってしまいました」。アンカリさんは、環境汚染が気候変動を引き起こしたと主張する。「どうやって防いだらいいのかわかりません。人々は、プラスチックを集めたりリサイクルすることすらしません。どこへでも廃棄して、環境を汚染しています。太陽は、今では焼け付くほどの熱さです。寒さも、以前と同じではありません」(PHOTOGRAPH BY ARMANDO VEGA)

「登山道が見えるように、今はランタンを持って行きますが、何年も前は必要ありませんでした」と、キスペさんは言う。「氷河からの明かりで十分でした。夜中に到着すると、母なる月が昇り、少しずつあたり一帯が昼間のように明るくなります。まるで天国に来たかのような、夢のような世界でした」

 キスペさんの息子のホゼ・イサク・キスペ・ペラルタさんも言う。「昔の氷河はどんな姿をしていたか説明したくても、目の見えない人に色とは何かを説明するようなもので、難しいです」

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文=AMANDA MAGNANI/写真=ARMANDO VEGA/訳=ルーバー荒井ハンナ

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