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35年以上巡礼に参加してきたリチャート・アイバル・キスペ・ソトさんは言う。「氷河が消え、私たちは何が起こったのかと自問しました。人は、『罪だ、罪を犯したからだ』と言うでしょう。けれど、そうではありません。原因は温暖化です」(PHOTOGRAPH BY ARMANDO VEGA)
踊り手として巡礼に10年参加しているヘリオ・レガラドさんは、融解する氷河について、「私たちが失おうとしているものは、足元の大地ではありません。母を失おうとしているんです」と語った。
「氷河の守護者」と呼ばれる舞踊団の踊り手であるアイバル・キスペさんも、自分自身は雪の浄めを受けて育ってきたが、氷河の融解によって、同じ祝福を未来の世代は受けられないのかと思うと悲しい、と話す。
「もし氷河が消えて、コイヨリッティへ行くことができなくなったとしても、私の信仰は失われません。けれど、心は痛むでしょう。自分の一部が消えてしまうような気がします」
世界最長の山脈であるアンデス山脈は、ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ボリビア、チリ、アルゼンチン、ペルーの7カ国にまたがっている。世界の熱帯氷河の70%はペルーにあり、最近ではその融解が尋常ではない速さで進んでいると、複数の研究が警鐘を鳴らしている。
その結果、長い間の伝統だった宗教儀式の一部は、変更を余儀なくされている。
2004年、氷河の融解速度を少しでも遅らせるため、祭りの主催者は、氷を切り出して人々に配布する習わしを禁止した。先住民は、氷河の融解水には癒しの力があると信じている。「それを聞いた多くの人が、涙を流しました。数百年間続いてきた伝統でしたから。でも、そうしなければならなかったんです」と、祭りの関係者であるノルベルト・ベガ・クティパ氏は言う。
かつては、分厚い氷河が聖地のすぐ近くまで伸びていたため、そこから山を登る巡礼者の足元を、月明かりが照らしてくれた。
「登山道が見えるように、今はランタンを持って行きますが、何年も前は必要ありませんでした」と、キスペさんは言う。「氷河からの明かりで十分でした。夜中に到着すると、母なる月が昇り、少しずつあたり一帯が昼間のように明るくなります。まるで天国に来たかのような、夢のような世界でした」
キスペさんの息子のホゼ・イサク・キスペ・ペラルタさんも言う。「昔の氷河はどんな姿をしていたか説明したくても、目の見えない人に色とは何かを説明するようなもので、難しいです」