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カリブ海の島、英領モントセラトで、聖パトリック祭のパレードに参加する伝統舞踊団「エメラルド・オリオールズ」のメンバー。太鼓を叩き、司教帽に似せたかぶり物を着けた仮面舞踏は、奴隷として連れてこられたアフリカの祖先と、彼らによる地主への反乱計画の歴史に敬意を表している。(PHOTOGRAPH BY VALBAUN GALLOWAY, MONTSERRAT TOURISM DIVISION)

カリブ海の聖パトリック祭 ちょっと変わった祭典が生まれた理由 写真5点

2021.03.16
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 3月17日は、アイルランドの守護聖人である聖パトリックの日だ。

 カリブ海に浮かぶ人口約5000人の島、英領モントセラトは、アイルランド以外で唯一、この日を公式な祝日に定めている。だがその祭典は、ドラム缶の太鼓に仮面舞踏、ヤギのシチュー、活火山といった、本家アイルランドの祭りにはない独特の伝統に彩られている。

 カリブ海の島にしては珍しく、モントセラトにはリゾート地がなく、巨大なクルーズ船が立ち寄ることもない。携帯電話を落とせば、拾った人はそれをラジオ局に届け、持ち主の元に無事返されるのが当たり前。車は鍵を入れたまま放置されているし、家のドアに鍵をかける人もいない。そしてここでは、聖パトリックの祝日を10日間かけて盛大にお祝いする。(参考記事:「船旅に行こう! 第5回 カリブ海」

 これを見て、大西洋の反対側にある小さな離島がアイルランドの伝統を金もうけの機会に利用しているのかと眉をひそめる人もいるだろう。そんな勘繰りはなくても、英国領なのにアイルランドのシンボルである三つ葉のクローバーをパスポートのスタンプに使ったり、アイルランド神話の女神エリウが金のハープを手にした姿が島の紋章に描かれたりしていることは奇異に映るだろう。

 確かに聖パトリック祭は島に大きな収入をもたらしてくれるが、モントセラトの人々は真似事をやっているわけではない。初期の頃に入植してきたアイルランド人と、それに抵抗しようとしたアフリカ系奴隷という、この島が持つ2つのルーツを確認する大切な日なのだ。

 今年2021年は、オンラインでの開催が決まったが、パンデミックのさなかにあっても、島の人々にとって聖パトリック祭を祝うことの重要性は年々高まっている。今もなお複雑なアイデンティティの問題を抱えるモントセラトでは、2035年までには英国から経済的に独立し、持続可能な観光業を育てたいという目標を掲げている。そういう状況下にあって、「自分たちは何者なのか、何を目指したいのか」という問いが、この目標をめぐる様々な決定に影響を与えているのだ。

ギャラリー:カリブの島の聖パトリックデー 英領モントセラトの歴史を反映した独特の祭 写真5点(写真クリックでギャラリーページへ)
ギャラリー:カリブの島の聖パトリックデー 英領モントセラトの歴史を反映した独特の祭 写真5点(写真クリックでギャラリーページへ)
2018年、聖パトリックの日に開催された早朝イベント「レプリコン・ダスト」に集まった人々。(PHOTOGRAPH BY VALBAUN GALLOWAY, MONTSERRAT TOURISM DIVISION)

アイルランド人だけではない

 ヨーロッパ人がこの島に到達する前、島には先住民のアラワク族とカリブ族が住んでいた。モントセラトという名は、1492年にクリストファー・コロンブスによって付けられた。フランスに占領されていた時期もあったが、1632年に英国領となる。近くにあるセントキッツ島の総督が、英国とアイルランドの移民を送り込み、植民地とした。(参考記事:「カリブ最初の民はほぼ絶滅していた、南米から侵入者」

 英国の清教徒革命を率いたオリバー・クロムウェルが、1649年にアイルランドへ侵攻した後、アイルランド人の政敵をカリブ諸島のサトウキビ農園やたばこ農園での労働につかせるため、島へ強制移住させた。現地では、英国人とアイルランド人の地主、アイルランド人労働者、そしてアフリカからの奴隷という階層社会が作られ、それぞれの階層の間に対立が生じた。

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