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メキシコの町オアハカでは、今でもフォルクスワーゲン・ビートルが当たり前のように走っている。(PHOTOGRAPH BY ADAM ROSE)

懐かしいフォルクスワーゲン・ビートル、メキシコでは今も現役 

2021.05.05
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 かわいい見た目でちょっとヒッピー、誰にでもすぐに見分けられるフォルクスワーゲン・ビートル。総生産台数は2100万台を超え、ドイツ語で「国民車」という意味の社名にふさわしく、まさに大衆車として世界中で愛された。

 今では、タイプ1と呼ばれるビートル(2003年まで生産)を路上で見かけることはほぼなくなった。代わりに現れたのは、スリムで安全、かつクリーンな燃料で走る自動車だ。こうした車には、キーレスエントリーからバックカメラ、ブルートゥースまで、今や必須とされる機能が満載されている。ビートルは絶滅危惧種となり、博物館やビンテージオートショー以外では見ることができなくなってしまった。

 だが、メキシコではそうではない。初めてこの国を訪れた旅行者は必ずと言っていいほど、坂道の多いバジェ・デ・ブラボやクエルナバカなどの町中を元気に上り下りするビートルに目を留めるはずだ。「観光地でよく見かけます」と語るのは、ビートル・ファンの英国の俳優ユアン・マクレガー氏だ。「オープンカーに改造されたものも多いです。チェーンソーで屋根を切り取ってしまうんですよ」

一時は世界のベストセラー車となったビートルだが、ドイツでは1978年に製造が中止された。(PHOTOGRAPH BY ADAM ROSE)
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 大気汚染に関する規制が厳しい首都のメキシコシティーでは古い車はほぼ走れなったものの、ラグニージャのように労働者が多く住む地域では今も、古い自動車がガレージから顔をのぞかせている。一方、流行の先端を行く地域では、19世紀のバロック建築の前に、修理されてピカピカに磨かれたビートルが駐車され、インスタグラムの写真に収まっていたりする。

 メキシコでは、年間を通してビートル・フェスティバルやレース、その他コアなファンが集まるイベントが開かれる。全盛期と比べると数は大きく減少したものの、ドイツ生まれの勇ましいビートルが、メキシコで長い間愛され続けている証だ。

小さくても頑丈、愛称は「ヴォチョ」

「メキシコへ行くといつも、サファリで珍しい動物を見ているような気分になります。他の国では、もうほとんど見かけなくなりましたから」と話すのは、ビートルの歴史について書かれた本「Thinking Small(小さく考える)」の著者で、ベルリンに住むアンドレア・ヒオット氏だ。

「もちろん、博物館に行けば見られます。ドイツのヴォルフスブルクには、フォルクスワーゲンの博物館がありますしね。でも今では買おうとすると非常に高価ですし、ビートルを所有している人も、ほとんど運転することはありません。けれど、ビートルは運転するために作られたんです。小さいけれど頑丈で、ビートル自身は外を走りたがっています。ですから、メキシコで、特に大都市ではない場所でまだ現役で活躍するビートルを見ると、うれしくなります」

 安価で実用的だったビートルは、個人のオーナーだけでなく、メキシコシティーのタクシー運転手にも人気だった。あまりにも至る所を走っていたので、メキシコ映画やドラマには付き物になった。

メキシコでは今も現役。(PHOTOGRAPH BY ADAM ROSE)
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 メキシコで、ビートルは「ヴォチョ」という愛称で親しまれている。「ヴォチョを、メキシコの文化と切り離すことはできません。20世紀後半には、通りを歩いてビートルを目にしない日はありませんでした」と、メキシコシティーで建築物のツアー会社を経営するニコラス・カイレンス氏は話す。カイレンス氏は、ビートルやワーゲンバスを修理して、市内の建築物案内ツアーに使っている。

 以前は米国に暮らしつつメキシコをたびたび訪れていたカイレンス氏は、2008年の金融危機の後、とうとうメキシコへ移住した。そこで古いビートルを購入して、修理した。その後も2台目、3台目、4台目と、次々に購入したものの、どれも気に入って手放せなくなったカイレンス氏は、ビートルへの情熱と、芸術や建築への愛を合体させて、「トラベリング・ビートル」というツアー会社を立ち上げた。

次ページ:「見た人々を笑顔にさせる何かが、この車にはあるんです」

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