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第一次ナゴルノ・カラバフ戦争によって、グナイ・ハミドワさん(中央)とその家族は、アゼルバイジャン西部のアグダム県を追われた。グナイさんの夫は2020年11月に終わった第二次戦争で亡くなった。(PHOTOGRAPH BY RENA EFFENDI, NATIONAL GEOGRAPHIC)

100万人が避難したナゴルノ・カラバフ戦争、30年ぶりに奪還された故郷は今

2021.02.20

「何もかも、置いたまま出て行きました」と、イラダ・グリエワさんは口を開いた。「お金も書類もすべて。すぐには家に戻れないなんて、当時は考えもしませんでした」。戦闘が始まった1992年、イラダさんの家族は、南カフカスの国、アゼルバイジャン西部のアグダム県カシムリ村から避難した。 (参考記事:「解説:ナゴルノ・カラバフ、なぜ争いが絶えないのか」

 南カフカスの隣国同士であるアルメニアとアゼルバイジャンは1990年代初頭、アゼルバイジャン・ソビエト社会主義共和国の自治州ナゴルノ・カラバフをめぐって争っていた。この地域で大多数を占めていたアルメニア系住民は、アゼルバイジャンからの離脱と、アルメニア・ソビエト社会主義共和国への統合を求めていた。そしてソビエト連邦が崩壊に向かう中、新たに独立したこの二国の対立は全面戦争へとエスカレートした。(参考記事:「世界の民族衣装 カフカス地方の眉毛美人(1913年)」

第一次ナゴルノ・カラバフ戦争の後、グバドル地区にはアルメニアの農民が移住したが、大半の建物は解体されている。農民たちは同地区がアゼルバイジャンに引き渡された2020年11月にここを離れた。(PHOTOGRAPH BY RENA EFFENDI, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 数十年間続いていた平和的共存は破壊され、100万人以上の人々が家を失った。村が陥落する数週間前、イラダさんと夫のイムラン・グリエフさんは、隣町から逃げてきた人々を保護した。「彼らは半裸状態で、血を流しながらうちの前に現れたんです」とイムランさんは言う。「一人の子供は息をしておらず、ほとんど凍りついていました」。アルメニアの武装部隊は町を逃れていく民間人に発砲して、子供を含む数百人の人々を殺害した。(参考記事:「戦闘を学ぶウクライナの子供たち、写真14点」

 この虐殺は後に、ヒューマン・ライツ・ウォッチなどの国際機関から非難を受けている。「カシムリ村が占領されたときには、私たちも同じ目に遭うのだと悟りました」

 アルメニア軍がアゼルバイジャンの7つの地区(アグダム県もその一つ)とナゴルノ・カラバフ地域を制圧すると、グリエフ家を含む50万人以上のアゼルバイジャン人が家を失った。グリエフ家が逃れた先は、アゼルバイジャンの首都バクー郊外にあるソビエト時代の荒れ果てた療養所だった。以来30年近く、一家は自分たちの家をもう一度目にする希望も持てないまま、つらい日々を過ごしてきた。

 しかし2020年11月、イラダさんは喜びのあまりテレビ画面にキスをした。アゼルバイジャンがアグダムを取り戻したのだ。

 20年9月、アゼルバイジャンは、かつてアゼルバイジャン人が住んでいた領土の支配権を取り戻すために軍事作戦を開始した。このいわゆる「第二次ナゴルノ・カラバフ戦争」は、新型コロナウイルスのパンデミックが吹き荒れる中、44日間にわたって続けられた後、ロシアが仲介する和平合意によって終結し、アゼルバイジャンが戦果のすべてを維持することとなった。「胸から大きな重荷が取り除かれたように感じました」とイラダさんは言う。(参考記事:「ロシア系住民は領土復活への足掛り」

 故郷を追われて30年間で初めて、アゼルバイジャンの人々が、失った土地に戻れることになったのだ。だが、そこに永住できるようになるまでには長い時間がかかるということも分かってきた。今のところ、当該地域への立ち入りは軍によって厳しく制限されている。さらに恐ろしいのは、人が住むために必要なものは、破壊し尽くされているということだ。戦闘がなかった地域も同じ状態にある。それでも故郷の家を自分の目で見てみたいというグリエフ家の人々に、私は同行することにした。

ギャラリー:戦争で家を追われた南カフカスの人々、30年ぶりの故郷の変わり果てた姿 写真27点(写真クリックでギャラリーページへ)
アイシャさんは軍人のアラズ・バフシャリエフさんとの結婚を望んでいなかった。(PHOTOGRAPH BY RENA EFFENDI, NATIONAL GEOGRAPHIC)
「彼を失うのが怖かったんです」とアイシャさんは言う。婚約の3カ月後、アラズさん(写真、右)は第二次ナゴルノ・カラバフ戦争で命を落とした。(PHOTOGRAPH BY RENA EFFENDI, NATIONAL GEOGRAPHIC)

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