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タイ南部の寺ワット・チェディの参拝者は、少年の霊が宿る像に無数のニワトリ像を寄進してきた。(PHOTOGRAPH BY AMANDA MUSTARD, NATIONAL GEOGRAPHIC)

タイで話題の「宝くじが当たる」寺、コロナ禍で人々が殺到

2021.02.11
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 新型コロナウイルス感染症によるパンデミックで国境が閉鎖されると、タイでは、GDPの20%以上を占めるとされる観光産業にも急ブレーキがかかった。

 そして数カ月後、人々の間にあるうわさが広まった。「卵少年」の霊が、ある人に宝くじの当選番号を教えてくれたというのだ。さらに、ある著名人が、自らの富と成功は卵少年のおかげだと公言した。

 たちまち、卵少年のもとには人々が押し寄せるようになった。卵少年とは、タイ南部の寺院ワット・チェディにある18世紀の像だ。

「タイの一般的な宗教観では、幽霊や精霊は人々の身近にあり、日々の暮らしのなかで人々と関わっています」と、バンコクにあるタマサート大学人類学部の講師、プラキラティ・サタスートさんは話す。

 新型コロナウイルスの感染拡大が社会や経済にかつてない重圧をもたらしている今、霊との結びつきはタイの人々にとって心の支えとなっている。以前はこの地方でしか知られていなかった卵少年にも、毎日数千人の参拝者が訪れるようになった。

タイでは、厳格な対策により新型コロナの感染拡大をかなり抑えている一方で、貴重な観光収入が激減して経済は悪化している。そのさなか、アイ・カイ目当てに毎日数千人の参拝者がこの寺を訪れる。(PHOTOGRAPH BY AMANDA MUSTARD, NATIONAL GEOGRAPHIC)

「アイ・カイ」フィーバー

 250年ほど前、ある僧侶とお供の少年が、旅の途中でタイ南部のナコンシータンマラート県にあるワット・チェディという寺に泊まった。僧侶は、この寺がいつか重要な場所になると感じ、アイ・カイと呼ばれていた少年に、この寺にとどまって地域の人々に奉仕するように伝えた(アイ・カイとは、文字通り訳せば「卵少年」、「いたずら小僧」と訳した方が正確かもしれない)。

 少年は僧侶たちを手伝って寺の手入れにいそしむ日々を送ったが、一方で、当時のタイの少年たちと同じく、村をパチンコで襲ったり、爆竹を鳴らしたり、ニワトリを追いかけたり、兵士ごっこをしたりすることもあった。数年が過ぎ、少年は、僧侶が村に戻ってくることを知った。そうなれば、少年は僧侶に連れられて村を離れることになるだろう。彼は、寺に奉仕するという誓いを守るため、池に身を投げて命を絶ったという。

アイ・カイの実物の像は屋根のあるお堂に安置されているが、敷地内に別のアイ・カイ像が複数用意され、参拝者が祈願し、金箔でこすることができる。(PHOTOGRAPH BY AMANDA MUSTARD, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 この悲劇を悼み、少年の奉仕の精神に心を動かされた寺は、アイ・カイの像を建立し、少年の霊を祭った。それから数百年間、アイ・カイの霊は何度も現れているという。ワット・チェディ管理委員会のスパチャイ・ジョムリットさんの話では、かつては寺で野営していた兵士たちにいたずらをしたこともあるそうだ。また、アイ・カイの霊に祈願すれば、なくした品が見つかったり、繁栄を授かったりするご利益があるともいわれている。

 2020年に入り、「アイ・カイ」フィーバーは、またたく間にタイ国内に広がった。

「隔離解除後の9月の連休に、7~8万人がこの寺を訪れました」とジョムリットさんは話す。以前は無名だった地方の寺としては、驚くべき数だ。現在でも、ワット・チェディには、常勤の僧侶は10人しかいない。

「この寺が有名になり、人々が各地から集まるようになったことを、とても誇りに感じています」と21歳のポーさんは言う。彼は、近隣の村で育った僧侶だ。「大混雑はまったく気になりません」

ギャラリー:タイで話題の「宝くじが当たる」寺、コロナ禍で人々が殺到 写真12点(写真クリックでギャラリーへ)
タイの人々にとって、幽霊や精霊は日常生活に溶け込んだ存在だ。(PHOTOGRAPH BY AMANDA MUSTARD, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 しかしながら、平日でも平均8000人ほどが訪れる状況に、僧侶たちがまったく困惑していないとは考えにくい。今では、6000台分の駐車場が整備された。ワット・チェディの敷地は限りなく拡張され、まるで広大な建設現場のようだ。

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