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丘の上から湖を見渡すウッドランド・カリブー。カリブーはカナダに生息する動物という印象が強いが、アメリカのミシガン州ロウアー半島には1910年代、ミネソタ州北部では1940年代までの生息記録が残っている。食糧や毛皮のための乱獲、森林伐採、開発による減少で北部へと追われ、カナダでも鉄道網の建設と同時期に急速に個体数が減った。カナダ・オンタリオ州。(Photograph by Hidehiro Otake)

北米ノースウッズ、森と湖の世界に野生の輝きを求めて、写真12点

2020.11.18
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 北アメリカ大陸の中央北部に「ノースウッズ」と呼ばれる森と湖の世界が広がっている。南は五大湖、北はハドソン湾に囲まれ、緯度は北緯45度と60度の間。気候は亜寒帯に属し、マツやトウヒ、モミといった針葉樹を主とした北方林の総面積は約300万平方キロメートル。シベリアのタイガや南米のアマゾンに次ぐ、地球上に残された最大級の原生林のひとつである。

 この地域はプレートの境界から離れた場所にあり、気の遠くなるような歳月の侵食によって高い山脈はすでに姿を消している。地表には先カンブリア時代に造られた固い岩盤が露出し、平均しても土壌は20センチほどしかない。北米の湖水地方とも言われるように、約1万年前の最後の氷河期が残した湖が無数に点在し、大地の瞳のように空を写して輝いている。

世界最大の淡水湖、スペリオル湖の夕暮れ。厳しい冷え込みで一夜にして張った薄氷が風に流され、ガラスが割れるような音を立てながら岸に押し寄せてきた。アメリカ・ミネソタ州。(Photograph by Hidehiro Otake)

 そんなノースウッズへ初めて足を踏み入れたのが1999年。日本ではおよそ100年前に絶滅したとされる野生のオオカミをこの目で見たいという願いからだった。自然を伝える写真家になることを決意し、最初に見つけたテーマだった。目指したのはアメリカ・ミネソタ州の北の果て。旅行のガイドブックを開いても何も書かれておらず、図書館で見つけたナショナル ジオグラフィックの契約写真家ジム・ブランデンバーグによるオオカミの写真集『ブラザー・ウルフ』など、彼の著作だけが情報源だった。

 しかし、情報がないからこそ、未知への憧れを募らせた。そして、実際に歩いたその先に待ち受けていた世界は新鮮な驚きに満ちていた。地の果てだと思っていたミネソタ北部だが、実はノースウッズの南端にあたり、森はカナダの北極圏にまで続いていた。オオカミの他にも、ムース(ヘラジカ)、アメリカクロクマ、ビーバー、カリブー(トナカイ)、カナダオオヤマネコ、さらにはカナダ・ハドソン湾岸のホッキョクグマと、物語の中でしか知らなかった北国の動物たちが幾種類も生息していた。湖水地方だけあって水鳥も多く、中でもアメリカを代表するナチュラリスト、ジョン・ミューアが「ウィルダネスで聞こえる全ての音の中で、最も野性的で、かつ胸を打つ」と讃えたアビの伸びやかな歌声を湖畔で聞くたびに、心の奥底が震えるのを感じた。

ウッドランド・カリブー州立公園をカヌーで旅する。夕食を作りながら焚き火にあたっていると、北の空にオーロラが輝きはじめた。カナダ・オンタリオ州。(Photograph by Hidehiro Otake)

 地球の歴史上、現代まで人間が生活してこなかった土地は南極大陸ぐらいのもので、ここノースウッズも例外ではない。氷河期が終わるとすぐに人類が移動してきて、300年前にビーバーの毛皮を求めるヨーロッパ人が鉄を持ち込むまでは、石器を使いながら狩猟採集の暮らしを営んできた。そして、彼ら先住民は湖水を移動する手段として、カナディアン・カヌーと呼ばれるオープンデッキの小舟を生み出した。それにキャンプ道具を積み込んで漕ぎ進めば、何日も、何週間も森の奥深くへと分け入ることができる。もともと大学時代に始めた沢登りで、焚き火をしたり、イワナを釣ったり、星空の下で眠ったりという野営生活に惹かれ、より大きな自然への興味を持つことになった自分にとって、薪も豊富にあり、魚もよく釣れるノースウッズは旅のフィールドとして申し分なかった。

ピクトグラフと呼ばれる先住民の壁画。鉄分を含んだ顔料に魚や獣の油を混ぜたもので描いたとされる。年代は約300年前の西洋人との接触以前と推測されるが、数千年前のものである可能性も否定できず、詳細は不明のままだ。ピクトグラフはノースウッズ全域に残されているが、カナダの河川でも重要な文化遺産と認められたカナディアン・ヘリテッジ・リバーに登録されているブラッドベイン川沿いに多く存在する。カナダ・オンタリオ州。(Photograph by Hidehiro Otake)

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