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消防士ラルフ・メレーへさんとの最後の別れを惜しむ人々。8月4日、ベイルート港で小規模な火災が発生し、彼を含む10人の消防隊が現場に駆けつけた。その後、数千トンの硝酸アンモニウムを貯蔵する倉庫が爆発し、10人全員が死亡した。

レバノン爆発事故、尽きぬ人々の嘆きと「彼ら」への怒り、写真17点

2020.08.29

レバノン、ベイルートの港で大爆発が起こってから3週間あまり。レバノン出身の女性ジャーナリストが祖国に寄せる思いを綴った。

 ベイルートよ。レバノン共和国の首都、混沌とした活気に満ち、地中海に面した美しい都市よ。「彼ら」があなたにした仕打ちを、どうやって言葉にすればよいだろう?

港の近くにあるこの建物は爆風により激しく損傷し、窓ガラスが1枚だけ残った。「歴史上最大規模の非核爆発」と呼ばれるこの爆発で、民家、企業、学校、病院など数万棟の建物が甚大な被害を受けた。

「彼ら」の怠慢と腐敗と人命の軽視が、あなたをずたずたにした。許してほしい。私たち市民は、ベイルート港の第12倉庫に危険な硝酸アンモニウムが2013年から2750トンも保管されていたことを知らなかった。倉庫の近くで小規模な火事が発生したという通報を受けて現場に急行した10人の消防隊も、そのことを知らなかった。

 けれども「彼ら」は知っていた。少なくとも、特定の税関職員、司法と治安部隊の上級職員、大統領、最近辞任した首相、そして、危険な貨物が荷揚げされて以来、政府に出入りしていたその他の政治家たちの一部は知っていた。「彼ら」は知っていたのに、危険を取り除くために何もしなかった。

ユネスコの初期の評価では、この爆発で600以上の歴史的建造物が損傷し、そのうち約60棟が倒壊の危険にさらされていることが明らかになった。
戦時中のような光景。今回の爆発は、ただ1回の爆発としては、2006年のイスラエルとの戦争や、2005年の1トントラック爆弾を使ったラフィク・ハリリ元首相暗殺事件よりも大きな被害をもたらした。この建物は港から道路を挟んだ向かい側にあり、大きな被害を受けた。

 8月4日午後6時すぎ、倉庫の硝酸アンモニウムが爆発した。明るい青空に巨大なキノコ雲が立ちのぼり、広がった衝撃波が家々から窓やドアやコンクリートを剥ぎ取り、粉砕した。

 爆発による死者は180人以上で、レバノン人が大半を占めていたが、シリア人、バングラデシュ人、エジプト人なども含まれていた。6000人以上が負傷し、数十万人が家を失った。いまだに瓦礫の下敷になっている人もいる。家族は彼らを待っている。各地区から集められた遺体の確認作業が進められている。

 レバノンは今年、新型コロナウイルスのパンデミックに伴う経済・金融危機に、政治的無策と市民の暴動が重なって、すでにぎりぎりの状況だった。その上に起きたのが今回の爆発だが、私たちは抱き合って慰め合うこともできない。

深刻な貧困

「彼ら」のへたな経済政策のせいで、通貨であるレバノンポンドの価値は昨年末から約80%も下落した。企業は倒産し、失業率は急上昇し、日用品とサービスの価格は急騰した。国民の半数が深刻な貧困に陥っている。貧困に追い討ちをかけているのが銀行だ。当初はドルの引き出し額を制限しただけだったが、今では暴落を続けるレバノンポンドでしか引き出せなくなった。数百万人のレバノン人が一生分の貯蓄を失った。

ギャラリー:「史上最大級の非核爆発」、ベイルートの街はいま、写真17点(写真クリックてギャラリーページへ)
荒廃した風景の向こうに港の穀物サイロの廃墟が見える。貯蔵能力12万トンの主要なサイロが破壊されたことで、小麦不足が懸念されている。先日、クウェートがこのサイロを再建すると発表した。
10人の仲間を失った消防隊のマルワン・ミトリ司令補(左端)は、「まだ信じられません」と語る。「私たちは決して彼らのことを忘れません。私たちは家族です」
ベイルートの丘の上にあるバーブダットの町から首都の片付けを手伝うためにやってきたシスター・マリーと教え子の高校生たち。レバノン全土で、こうしたボランティア活動が始まっている。

 新型コロナウイルスの感染者は今も急速に増えている。感染者は累計1万3000人以上、死者は120人を超えた。今回の爆発でベイルートの3つの大病院と多数の診療所が破損したため、爆風の犠牲者も、新型コロナウイルスの感染者も、その他の病気の人々も治療を受けにくくなっている。

 私たちはなぜ、こんな国に耐えているのだろう? 私利私欲ではなく国益のために働くはずの人々の心に、自分たちの訴えが響かないことを知っているからだろうか? よく言われるように、レバノン人は打たれ強いからだろうか? その言い草は陳腐な呪いだ。レバノン人が打たれ強いのは、そうでないと生きていけないからにすぎない。

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