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米アラスカ州スワード半島の崖やツンドラの上空を舞うシロハヤブサ。多くの個体が、地球最速で温暖化が進む地域である北極圏に年間を通して留まるため、気候変動に対して特に脆弱な種だ。 (PHOTOGRAPH BY KILIII YÜYAN)

北極圏にすむシロハヤブサ 気候変動、不可避の脅威に直面

2020.08.18

 シロハヤブサは世界最大のハヤブサだ。体重は1.4キロ以上、翼を広げれば1.2メートルにもなり、自身の2倍の大きさの獲物をしとめることもある。飛行速度もトップクラスで、長距離を飛ぶ際の速度は時速130キロを超える。 (参考記事:「2018年10月号 特集ギャラリー:ハヤブサを守る」

 シロハヤブサは北極圏に生息しながら、冬でもそれほど南下しない唯一の猛禽類だ。つまり、暗い凍てつく地に留まって獲物を狩るのだ。猛禽類を研究する米アラスカ州漁業狩猟局の生物学者トラビス・ブームス氏は、「過酷な環境に生きるシロハヤブサには、畏敬の念すら覚えます」と話す。

 ただ現在、シロハヤブサを取り巻く環境は大きく変化している。というのも、北極圏は他の地域と比べて倍以上の速さで温暖化しているからだ。気温が上昇したことで、一般に多くの生物が、寒冷な極地に向け生息域を移すことが確認されている。 (参考記事:「永久凍土の「急速融解」、温暖化への影響は従来説の倍も、研究」

 しかし、そもそも極寒の地で生きるシロハヤブサには、生息域をこれ以上、北へと移す余地はない。逃げ出すこともできない試練に直面したシロハヤブサは、今や北極圏で最も脆弱な種の1つだと考えられている。幸いにも、絶滅のおそれがある種に指定されるほど個体数は減少していないが、アラスカ州での最近の研究によれば、不安材料はある。

「今のところ、個体数は安定しています。でも、減少に転じるおそれがあります」とブームス氏は話す。「脅威が差し迫っていると考えています」。同氏は、シロハヤブサが気候変動にどう適応しているのかを解き明かそうと、アラスカ西部のスワード半島での長期的な研究に参加している。この半島には、シロハヤブサのつがいが70〜80組いて、この数はアラスカ州に生息する全個体数の約10分の1にあたる。

シロハヤブサとイヌワシは、北極圏に広がる広大な無人の荒野で崖の営巣地をめぐって争う。写真は、スワード半島を流れる川沿いにそびえ立つ断崖に作られたかつてのイヌワシの巣。この地域は、道路網のおかげで研究者がアクセスしやすいため、シロハヤブサの研究に最適なまたとない場所だ。 (PHOTOGRAPH BY KILIII YÜYAN)

 2019年6月、写真家キリイー・ユーヤン氏は、スワード半島にあるシロハヤブサの巣を訪れる研究者に同行した。シロハヤブサは観察することさえ難しい鳥にもかかわらず、ユーヤン氏はここで紹介する写真をはじめ、野生のシロハヤブサの生態を垣間見られる貴重な写真を撮ることに成功した。同氏がこのプロジェクトに参加したのは、研究の重要性はもちろん、シロハヤブサの美しさや北極圏の頂点捕食者としての役割にひかれたからだ。

 どうやって冬を乗り切るのか、どこで冬を過ごすのかなど「シロハヤブサの生態は、ほとんど何も分かっていないのです」とユーヤン氏は話す。

ギャラリー:世界最大のハヤブサ、北極圏のシロハヤブサの生態を撮った貴重な写真9点(画像クリックでギャラリーへ)
孵化後約25日のシロハヤブサのひな。将来識別できるよう、もうすぐバンドが付けられる。ひなにバンドを付け、測定や血液採取をするためには、何キロも歩き、崖をロープで下りなければならない。(PHOTOGRAPH BY KILIII YÜYAN)
夏の気温が高いと蚊の大群が発生する。幼鳥にはまだ免疫がない。北極圏の温暖化に伴って、蚊が媒介するウエストナイルウイルスのような鳥類の病気が広がることが懸念される。 (PHOTOGRAPH BY KILIII YÜYAN)

次ページ:「北極圏の天空の女王」の野生の姿

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