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ラーマ・ハッサン・マフムードさん。ブラオのIDPキャンプで撮影。(Photograph by Nichole Sobecki)

困窮するソマリランド、女性たちを追い詰める性暴力と人身売買

2020.06.28
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 わずか6年前、ソマリアは、オーストラリアに次いで世界第2位のヒツジの輸出量を誇っていた。ラクダの主要な供給国でもあり、ソマリランドの中心都市ハルゲイサのラクダ市場では日々、何百頭ものラクダが取引されていた。しかし、そうした賑わいはすでに消え去っている。

1億4300万人の大移動

 世界銀行の推計によると、2050年までに、世界中で1億4300万人が、気候変動の影響を逃れるために故郷を離れることを余儀なくされるという。ラーマさん一家のような人々は、代替となる生活手段もないまま、IDP(国内避難民)となっていく。より良い生活を求めて、国境を越えて難民となる者もいる。

2016年、プントランド自治区の密輸拠点であるマレエロ郊外の洞窟を目指す、ソマリアとエチオピアの移民。洞窟で船を待ち、イエメンやサウジアラビアなど湾岸諸国へ逃れるのが狙いだ。国内避難民キャンプや難民キャンプに足止めされている人々の中には、何もしないまま時を過ごすよりも、この危険な旅を選ぶ者もいる。(Photograph by Nichole Sobecki)
2016年、プントランド自治区の密輸拠点であるマレエロ郊外の洞窟を目指す、ソマリアとエチオピアの移民。洞窟で船を待ち、イエメンやサウジアラビアなど湾岸諸国へ逃れるのが狙いだ。国内避難民キャンプや難民キャンプに足止めされている人々の中には、何もしないまま時を過ごすよりも、この危険な旅を選ぶ者もいる。(Photograph by Nichole Sobecki)

 しかし、ここ数十年の間に国内の紛争や干ばつから逃れるために土地を離れた何十万人ものソマリ人にとって、より良い生活はまだ幻のようなものだ。隣国ケニアのダダーブにある世界最大級の難民キャンプには22万人近くが暮らしているが、彼らはそこでただ待つことしかできない。

 NATO、米国防総省、国連などの国際機関は、気候変動のことを「脅威乗数(threat multiplier)」と表現している。これはつまり、気候変動は単独の現象ではなく、社会における既存の問題を増幅させるものであるという意味だ。その傾向は、人が暮らしにくい乾燥した地域で特に強く表れる。ソマリランドとソマリアでは、気候変動と貧困、内戦が相まって、その大きな負担が女性たちにのしかかっている。

ソマリランドのIDPキャンプで暮らす女性たち。人身売買業者は、彼女らの子どもに近づきいて一緒に逃げるよう説き伏せると、両親に子どもたちの悲鳴を録音した音声メッセージや、あざや血に覆われた子どもの写真を送り、5000〜1万7000ドルの身代金を支払うよう要求する。支払う余裕がない場合、子は死んだと聞かされる。ファドゥモさん(下段の右端)は、エチオピア国境で警察に止められた人身売買業者からハムディさん(同じ写真)を救い出した。ファドゥモさんは現在、子どもの人身売買の危険性を広く周知するための活動を行っている。(Photograph by Nichole Sobecki)
ソマリランドのIDPキャンプで暮らす女性たち。人身売買業者は、彼女らの子どもに近づきいて一緒に逃げるよう説き伏せると、両親に子どもたちの悲鳴を録音した音声メッセージや、あざや血に覆われた子どもの写真を送り、5000〜1万7000ドルの身代金を支払うよう要求する。支払う余裕がない場合、子は死んだと聞かされる。ファドゥモさん(下段の右端)は、エチオピア国境で警察に止められた人身売買業者からハムディさん(同じ写真)を救い出した。ファドゥモさんは現在、子どもの人身売買の危険性を広く周知するための活動を行っている。(Photograph by Nichole Sobecki)

 女性は、ソマリアとソマリランドのIDPキャンプで暮らす人の大半を占めている。男性の中には、村に残ったり、内戦に参加したりする人もいるため、子供たちを養い、育てる仕事は主に女性に任される。

 キャンプは女性たちに、新たなリスクと恐怖をもたらす。レイプなどの暴力にさらされる危険が高まるからだ。ソマリランドの東に位置するプントランド(ソマリアの一地域)では、避難民キャンプの守衛たちが、食料や避難所の利用と引き換えに、女性たちに性的な接待を強要している。絶望した人々の心につけこむ人身売買業者は、少年少女を説き伏せてヨーロッパへと連れ去る。だが、目的地へ行きつく前に命を落とす若者も少なくない。

ハビボさんとナステハさん

 2010年、現在40歳前後のハビボ・ダカネ・ユッスフさんは、干ばつに追われて、ソマリア南部にある自分の村からダダーブの避難民キャンプまで徒歩で移動した。2週間の旅の間に、8人の男たちが、小さな息子のムサブくんが泣き叫ぶ横で、ハビボさんをレイプした。今も心の傷は癒えず、骨盤の痛みと慢性的な失禁が続いている。

 2019年10月には、3人の男がハビボさんの9歳の娘、マンデックちゃんを学校から連れ去り、性的暴行を加えた。マンデックちゃんの体は男たちに噛まれ、カミソリで切られていた。ハビボさんと3人の子供たちは、今ではほとんど自分たちのテントの周りを離れない。

ギャラリー:困窮するソマリランド、女性たちを追い詰める性暴力と人身売買 写真18点(画像クリックでギャラリーへ)
ハビボ・ダカネ・ユッスフさん(約40歳)と娘のマンデックちゃん(10歳)。(Photograph by Nichole Sobecki)
ハビボ・ダカネ・ユッスフさん(約40歳)と娘のマンデックちゃん(10歳)。(Photograph by Nichole Sobecki)
ダダーブの難民キャンプで2歳の息子ムサブくんを抱くナステハ・ハッサン・アブディさん(約16歳)。(Photograph by Nichole Sobecki)
ダダーブの難民キャンプで2歳の息子ムサブくんを抱くナステハ・ハッサン・アブディさん(約16歳)。(Photograph by Nichole Sobecki)

 ユニセフなどの援助機関は、干ばつの後には児童婚が増加すると指摘している。アフリカの角など、気候変動の影響を受けている地域の大半では、日々の苦労と貧困から、人々は幼い娘を売るという選択に追い込まれる。

 16歳前後と思われるナステハ・ハッサン・アブディさんは、ソマリア南部の紛争によって孤児となった。2016年の干ばつで家族のヤギが死んだ後、ナステハさんは祖母によって同じ街に暮らす男に売られた。彼女は当時12歳だった。相手の男の年齢はわからなかったが、父親くらいの年に見えたと、ナステハさんは言う。

「よく殴られました。しょっちゅうわたしと一緒に寝て、わたしはそれが嫌でした」。彼女が泣くと、お前のことは金を払って手に入れたんだから、わたしの好きなようにしていいのだと、男は言った。

 その後、ナステハさんはダダーブへ逃れた。妊娠がわかったのは、この街にたどり着いたときのことだ。

 幼い頃のナステハさんを知っていた50歳前後の女性ハリマ・ハッサン・モハメドさんが、彼女を引き取った。

 周囲の少女たちはナステハさんに冷たく、若くして子供を持ち、夫もいない彼女のことを尻軽女と呼ぶ。「ナステハはもうわたしの子供です。わたしが力を尽くしてこの子を守るつもりです」と、ハリマさんは言う。(参考記事:「処刑、掃討、性暴力、世界で最も弾圧されている民族ロヒンギャ」

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