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新型コロナウイルスのパンデミックの最中、インドネシア海兵隊が配布する援助物資を受け取るために集まった人々。ジャカルタ、グヌンサハリ。(Photograph by Muhammad Fadli, National Geographic)

「政府は遅すぎる」新型コロナ、インドネシアで何が起きているのか 写真27点

2020.05.22
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 しかし、こうした地域的な封鎖を行うことで、パンデミックによる経済的な影響を相殺できるわけではない。多くのインドネシア人が、約束された支援を提供できない政府への不満を表明している。ディアニ氏の住む地域では、クラウドファンディングサイトを通じて物資購入のための資金を集め、また住民同士で助け合うために共同で資金を蓄えている。しかし、それでいつまで耐えられるかはわからない。

東ジャカルタのポンドック・ランゴン公営墓地にある、新型コロナ犠牲者専用の埋葬地。インドネシアは、アジアでは中国とインドに次ぐ死者を出している。(Photograph by Muhammad Fadli, National Geographic)

ラマダン明けの大移動を懸念

 地域ごとにさまざまな社会的制限策を講じてきたインドネシアに今、大きな試練の時が近づいている。インドネシアで「レバラン」と呼ばれる、断食月ラマダンの終わりを祝う祝祭だ。レバラン(今年は5月23〜24日)を祝う人々は、祈り、施しを行い、ごちそうを食べて休暇を過ごす。

 レバランの問題は祝祭だけではなく、ムディクにある。ムディクとは、休暇を過ごすために都市から故郷へと人々が大移動する習慣のことだ。例年、2000万人もの人々がムディクのためにインドネシア国内を移動する。そして今年は、移動制限を警戒した多くの労働者たちが、1カ月前倒しで故郷への移動を開始している。

聖月ラマダンの終わりを祝う休暇の間、例年は2000万人の人々がインドネシア国内を移動する。写真はジャカルタからスマトラ島西岸の都市パダンに向かうバス。目的地までは少なくとも40時間かかり、需要が高いため、バス会社は半分を空席にするようにとの政府の命令をほとんど気にかけていない。(Photograph by Muhammad Fadli, National Geographic)

 4月23日の日没から始まったラマダンによって、世界最大のイスラム人口を抱えるこの国では、もともと低かった社会的距離を保つ意識がさらに低下している。アチェ州などでは、人との距離を保持するためのガイドラインを無視して、大勢の人々が集団礼拝のために集まり、共に日没後の食事をとっている。

 4月21日、ウィドド大統領がムディクを禁止し、複数の州に24時間稼働の検問所を設けた。ジャカルタ州に出入りを試みた数多くの車が、これによって強制的にもと来た道へとUターンさせられた。ディアニ氏はこれを、政府がウイルスの脅威を真剣に受け止め始めた兆候と考えていた。

 ところが5月6日、政府はこの方針を撤回し、乗客の間に空席を設けるなどの「衛生手順」に人々が従う限り、ムディクのための陸海空の移動を制限しないと決定した。

 ミーツナー氏は言う。「政府は表面上ムディクを禁止する態度を見せつつ、実際にはこれを都市部で高まる社会経済的な圧力のガス抜きにちょうどいい手段として見ており、代わりに感染者数が増加しても構わないと考えているのです」

ギャラリー:新型コロナ、インドネシアで起きていること 写真27点(写真クリックでギャラリーページへ)
幼い子供を連れた家族。ジャカルタを離れて、故郷のスマトラ島でパンデミックが収まるのを待つという。(Photograph by Muhammad Fadli, National Geographic)
シラキャップは漁業が盛んなことで知られるが、需要が減少したことから、今では多くの漁師が船を出さずに操業コストを節約している。(Photograph by Muhammad Fadli, National Geographic)

 もしこのままムディクが行われれば、インドネシア国民の半数以上が暮らすジャワ島では、7月までに100万人の感染者が出る可能性があると、インドネシア大学公衆衛生学部は予測している。

 ディアニ氏は言う。「今では誰もがコロナウイルスの脅威を理解していますが、中央政府からの命令がない現状では、いまだに日々の生活を変えることに対して消極的な人が大勢います。事態の深刻さが伝わっていないのです」

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文=KRITHIKA VARAGUR/写真=MUHAMMAD FADLI/訳=北村京子

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