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新型コロナウイルスのパンデミックの最中、インドネシア海兵隊が配布する援助物資を受け取るために集まった人々。ジャカルタ、グヌンサハリ。(Photograph by Muhammad Fadli, National Geographic)

「政府は遅すぎる」新型コロナ、インドネシアで何が起きているのか 写真27点

2020.05.22
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 なんらかの予防措置を講じるよう市民が声を上げはじめてから1カ月近くがたったころ、インドネシア中央政府はようやく重い腰を上げた。国内線は全便キャンセルとなり、イスラム教の聖月であるラマダン終了後の国内移動が禁止された。また、5月22日までの「大規模な社会的制限」命令も発令されたが、その条件は曖昧であり、今も大勢の人たちが職場へ通い、公共交通機関を利用している。

 多くのインドネシア人にとって、政府の対応はあまりも遅いうえに規模も小さく、また何百万人もの貧困層がどんな暮らしをしているかを考慮に入れていないものだった。

家族を訪ねるために、南半球で最も利用者の多いジャカルタ、スカルノハッタ国際空港に到着した女性。(Photograph by Muhammad Fadli, National Geographic)
ジョグジャカルタ南岸にある人気の巡礼地チュプリ・パランクスモ。パンデミックの影響で訪れる人は激減したが、管理人は日々の清掃を怠らない。(Photograph by Muhammad Fadli, National Geographic)

地域コミュニティが進める独自の対策

 世界で最も人口の多い島であるジャワ島には、感染症対策の重要さを人々に伝えるために、とりわけ独創的な工夫を凝らしている地域がある。たとえばケプ村では、若者たちが不気味なポコン(地元の民間伝承に登場するミイラ)の扮装をして夜警を行い、住民たちに家に留まるよう促している。また、ジャワ中央部に位置するスラゲン県では、自己隔離の命令に背いた男性2人が、「幽霊屋敷」と噂される水田の中に立つ廃墟に隔離された。

 インドネシア全土で、検査から接触者の追跡まで、パンデミックの最前線での対応を担っているのは「プスケスマス」という機関だ。これは政府が出資する地域保健所で、健康診断、妊婦・産後ケア、予防接種などの基本的なサービスを提供している。

 約9700カ所あるプスケスマスを運営するのは、中央政府ではなく地区や市の自治体であり、この国の民主主義が地方分権の上に成り立っていることがよくわかる。1998年に33年間続いたスハルト独裁政権が崩壊したとき、地方の指導者たちはより強力な自治権を求めた。現在のインドネシアの下部行政機関は、自分で自分の面倒を見ることにある程度慣れているのだ。

バンドンのコンビニ店員。感染のリスクを減らすため、マスクを着用し、ビニールシートの向こうに立っている。(Photograph by Muhammad Fadli, National Geographic)

 政府は当初、地方の都市封鎖を好ましく思っておらず、3月の時点でウィドド大統領は、公式な隔離措置はすべて中央政府の指示によって行われなければならないと主張していた。しかし4月になると、おそらくは地方自治の強固さを悟ったことから、政府は各自治体に対し、大規模な社会的制限を公式に要請し、重要度の低い企業の営業を停止させる許可を与えた。これまでのところ、二つの州と、バンドンやマカッサルなどの大都市を含む16の地方自治体が、こうした措置を講じている。

 一方で、長期にわたる社会的制限が発動されている、人口1000万人の大都市ジャカルタでも、地域住民による小規模な封鎖が行われてきた。北ジャカルタ市の住宅密集地域が、3月上旬に最初に行動を起こした。西ジャカルタ市のタンボラ地区は、手作りの「立入禁止」の旗を使って一帯への入り口を封鎖した。早い時期から行われたこうした取り組みがソーシャルメディアで広く拡散されたことで、これにならう動きが促されたと、NPO「都市貧困コンソーシアム」の社会活動家、ググン・ムハンマド氏は語る。

ギャラリー:「政府の対応に不満」市民主導のコロナ対策、インドネシア 写真27点(写真クリックでギャラリーページへ)
中央ジャカルタのタナアバン地区。住民が入り口をバリケードで囲み、自主的な封鎖を実施している。(Photograph by Muhammad Fadli, National Geographic)
中部ジャワ州プルウォダディ周辺の小さな村に設けられた木材のバリケードと、部外者立入禁止を知らせる看板。(Photograph by Muhammad Fadli, National Geographic)

「都市部の貧困層の多くは、狭い住宅に多世帯で暮らしているため、『ただ家にいる』ことが難しいのです」と、ムハンマド氏は言う。「そのためわたしたちは、村単位で隔離を行うようにしています」。そうすれば、人々はより広い空間を使いながら、より持続可能なやり方で安全を確保することができるからだ。

次ページ:政府に期待せず地域コミュニティで支え合う

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