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出産して疲れきったキンバリー・ボンシニョールさんが、自宅の居間に設置した出産用プールで横になる。新型コロナウイルスのパンデミックを受け、ボンシニョール夫妻は予定していた病院での出産に代え、自宅で第二子を迎えることにした。(Photograph by Jackie Molloy)

新型コロナ患者で溢れる病院よりも自宅出産を選ぶ女性たち

2020.05.31
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 3月下旬、米国ニューヨークに暮らす33歳のキンバリー・ボンシニョールさんは、自宅出産の計画を立て始めた。新型コロナの影響で、病院での出産に家族が立ち会えないことになったからだ。第二子を妊娠中の彼女は、夫アルさんと2歳の娘サティヴァちゃんを部外者にしたくなかった。

「娘にもこの体験をしてほしくて、その場にいてもらいたかったんです」。ボンシニョールさんは言う。「まるで子犬を連れ帰ったかのように、『ほら、これがあなたの妹よ』と言いたくはなくて」

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、ニューヨーク長老派教会とマウントサイナイ系列の病院が陣痛室および分娩室におけるすべての面会を禁止してから、市内で働く助産師たちは一挙に忙しくなった。立ち会いなしで産みたくはない女性たちが、病院での出産に代わる方法を求めていたのだ。

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午後3時35分
「ドゥーラ」と呼ばれる出産援助者であるアンジェリーク・クラークさんのサポートを受けつつ、激しい陣痛に耐えるボンシニョールさん。2歳の娘、サティヴァちゃんは、母親が痛みで叫び声をあげると、父親のアルさんと祖母のルイーズさんの元に駆け寄った。(Photograph by Jackie Molloy)

 ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事はその後、あらかじめ新型コロナウイルスの検査を受けることを条件に、1人だけ分娩室で立ち会うことができるという州知事命令を出した。それでも、病院には新型コロナウイルス感染症患者があふれていることを考えると、自宅で出産したい、という人が大幅に増加した。

 米国ではもともと自宅出産は少ないが、それでも過去16年間、安定して増え続けている。アメリカ国立生物工学情報センターによれば、米国における2017年の出産のうち、1.61%にあたる6万2000件以上が自宅出産だったという。認定助産師が付き添う出産は、病院か自宅かを問わず全体の10%だが、州によって患者のケアにおける役割は異なる。

 女性たちが助産師や「ドゥーラ」と呼ばれる援助者にサポートしてもらっての自宅出産を選ぶのには、様々な理由がある。たとえば、痛み止めや陣痛促進剤などの医療の介入を少なくしたい、出産する環境を自分で自由にコントロールしたい、助産師の方が自分の宗教的価値観を尊重してくれると感じる、病院というシステムに不満を感じている、などだ。

午後3時56分
ドゥーラであるアンジェリーク・クラークさんが出産用プールに熱湯を注ぐ。初めは流し台につないだホースを使っていたが、ボンシニョールさん宅のお湯が切れてしまったため、鍋に湯を沸かした。(Photograph by Jackie Molloy)

出産を準備する

 ボンシニョールさんが、第一子出産時のドゥーラだったアンジェリーク・クラークさんに連絡をしたのは妊娠37週目のことだった。助産師と違い、ドゥーラは正式な医療訓練を受けていないが、身体面、精神面、そして感情面でのサポートをしてくれる。クラークさんはボンシニョールさんに、ニューヨーク市を拠点に活動する認定助産師、カーラ・ミュルハーンさんを紹介した。通常であれば、妊娠初期のうちから少なくとも10回、ボンシニョールさんとミュルハーンさんは面談を行い、想定し得る様々な事態について話し合っていたはずだ。

 オンラインでの2度の面談と1度の自宅訪問を経て、2人は医療関連書類への記入や出産用具のキットの注文など、自宅出産の準備を始めた。自宅出産に必要なものは色々とあるが、そのうちの1つはボンシニョールさん宅で居間に設置することになった、出産用のプールだ。

午後5時58分
ドゥーラであるクラークさんと助産師のカーラ・ミュルハーンさん(右)に支えられ、ボンシニョールさんが出産用プールに入る。(Photograph by Jackie Molloy)

 助産師のやり方は、病院のそれとは違う。医師のように妊婦を主導し、いついきむかを指示するのではなく、本人にイニシアチブを取らせるという方針を採る。

「自宅出産においては、『生理的な出産』と呼ばれるやり方を大切にしています」とミュルハーンさんは言う。「妊婦さんをサポートし、励まし、できる限り痛みを和らげてあげて、私たちがついているということを感じてもらい、時折誘導してあげれば、ほとんどのケースで出産は自然に起こっていくと考えているのです」

次ページ:自宅での出産

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