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せき、息切れ、高熱というCOVID-19の典型的な症状がある男性の家から出てきた救急隊員。男性はミュルーズの病院に救急搬送された。(Photograph by William Daniels)

コロナ被害者を支える葬儀人~家族がサヨナラを言えるように

2020.05.05
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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が始まって最初に撮影した葬儀は、マリー・テレーズ・ワスマーという女性のものだった。ワスマーは90歳近い年齢で、フランス東部、ミュルーズ郊外の墓地に埋葬された。ミュルーズは、フランス全土に拡大したCOVID-19の初期の発生源だ。

 ワスマーはウイルス検査を受けていないが、感染者のように埋葬された。ロックダウンなどの影響で、友人や家族は誰一人として葬儀に参列しなかった。ひつぎに納められ、密封されたワスマーを、神父と4人の葬儀人が埋葬したときのこと。葬儀人たちはいつもと異なる役割を引き受けた。まるで家族のように、ひつぎに向かって祈りをささげたのだ。

ビュー・タン村で行われたマリー・テレーズ・ワスマーの葬儀。家族の姿はなく、葬儀人がひつぎに向かって祈りをささげた。ワスマーは自宅で遺体となって発見された。新型コロナウイルスの検査は行われていない。(Photograph by William Daniels)
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フランスでは、パンデミックを理由に、葬儀に参列できるのは神父、葬儀人を含めて最大10人と定められた。COVID-19で命を落としたシモーヌ・ピケルマルの葬儀には、親族34人のうち5人が参列した。(Photograph by William Daniels)
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 フランスはCOVID-19の流行を抑制しようと必死に努力しているが、4月21日の時点で、11万7324人が感染し、2万796人の命が失われている。そんな中、葬送を請け負う葬儀人は隠れたヒーローとして、死者と残された人々の世話をしている。彼らは、死者を最初に受け入れる大事な役割を果たすだけでなく、家族と死者をつなぐ最後の接点でもある。感染のリスクを理由に、親族さえも病院や遺体安置所、墓地から閉め出される現状では、残された人々を慰め、故人に別れを告げる手助けができるのは葬儀人しかいない。

 私はミュルーズでそうした光景をじかに見た。ミュルーズはドイツとの国境からほど近い工業都市だ。葬儀場のディレクターを務めるジェレミー・ウォルター氏は、故人への手紙をひつぎに納めてほしいという依頼があると語った。動揺した家族から、ひつぎを密封する前に、故人の写真を撮影してほしいと頼まれたこともある。この家族が故人と最後に会ったのは死の数週間前。故人が暮らしていた老人ホームを訪ねたときだ。

COVID-19患者の遺体を引き取るため、ミュルーズ近郊の老人ホームを訪れた葬儀人のジェレミー・ウォルター氏とフレッド・ポンズ氏。COVID-19の流行前、葬儀の数は週7件程度だったが、写真撮影時、ミュルーズの流行はピークに達しており、ウォルター氏らは1日5〜8人の遺体を引き取っていた。(Photograph by William Daniels)
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パンデミックの到来

 2月17日、集会が禁止される前、世界各地から約2500人がミュルーズに集まった。クリスチャン・オープン・ドア教会が毎年開催する5日間の伝道会議に出席するためだった。この直後、フランス最大のクラスターが発生。フランス保健相はミュルーズを新型コロナウイルス拡大の「転換点」と呼んだ。4月21日現在、ミュルーズ一帯では、COVID-19による死者が4545人確認されている。パリ近郊に次ぐフランス2位の死者数だ。

 私は3月後半、フランス軍が立ち上げた野外病院を取材するため、パリからミュルーズにやって来た。500キロ近く車を走らせたが、人を見かけることはなかった。ミュルーズに到着したとき、感染者数はピークに達していた。医療機関に患者が殺到し、ヘリコプターでほかの地域やドイツに移送せざるを得なくなっていた。ミュルーズの街は不気味なほど空っぽで、2つのホテルだけが営業していた。1つは軍人、もう1つはジャーナリストが宿泊していた。

ギャラリー:コロナ被害者を支える救急隊員と葬儀人~家族がサヨナラを言えるように 写真18点
フランス東部、ミュルーズに新設された野外病院の控室で、防護服を身に着ける医療スタッフ。一帯ではCOVID-19が流行、フランスの死者数の4分の1近くがこの地域に集中している。(Photograph by William Daniels)

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